11/30/2015

ノマド的生き方

私の滞在先のホストがプロファイルに『lived a completely nomadic life, moving from one place to another throughout the worldと自己形容していたことからこの英単語を知ったけれど、最近日本語でよく目にするようになった『ノマド』がこれだったのだ、と今更のように気づいた。

特に知られるところとしては『ノマドワーカー』という言葉。オフィスを持たず、ラップトップひとつでカフェや図書館で仕事をする人を形容するらしい。少し前まではそう言う人を『フリーランス』と呼んだものだけど、今現在の流行り言葉がそれなのだと。『フリーター』という言葉が定着して社会的にもその存在が認められるようになってから随分経つ。


私の生涯はそれそのものだったけれど、1980年代にはまだ普通に会社勤めをする人がメインストリームだったので、私のように仕事を転々としては外国と日本を出入りしている存在はまるで社会的落伍者のように扱われた。母には顔を合わせればいつも「どうして他のお嬢さんと同じような生き方ができないものか」と愚痴をこぼされ、それが嫌でまた外国に逃げるということが続いていた。海外では普通に生きられるのに、日本社会に戻ってくると自分がちっぽけに思えて惨めで本当に辛かった。


そんなわけで初めて『フリーター』という言葉を目にしたときには時代も変わったのものだと思った。もう少し後に生まれてきていたなら、私のような存在がそう悪のように思われなくても済んだのかもしれない、と。





ここバリにはそんなノマドワーカーがたくさん居る。ラップトップとスカイプコンフェレンスで仕事が成り立つのだったら、ネット環境が整っていれば世界中のどこでも生活できる。物価の高い土地にいるよりも、寒さが厳しい土地にいるよりも、なにも都会に住まなくとも、自分でお気に入りの土地を求めて移動しながら仕事ができるという選択がある。ここウブドではフリーでWifiが使えるところが多いのでラップトップと向かいあっている人が相当に多い。 


Mはそのように生きる一人だった。エクスタティックダンスで知り合った彼は、この地で行われていたスタートアップのコンフェレンスに参加するためにタイのチェンマイからやってきていた。それ以前彼はサンフランシスコベイエリアに住んでいたので、そんな共通点から話がとんと弾んでいった。


モンキーフォレストの近くに『Hubud』という、そんなノマドワーカーのためのネット環境が整ったco-woking spaceがある。


Wifi環境とはいっても、私の滞在地やその他カフェで接続していると、そのスローさに唖然としてしまう。それはまるで20年前にアメリカンオンラインに接続するのに電話回線で長いこと待たされたあの日を彷彿させられるような遅さのときもあるくらいだ。そのスピードをがっつり整え、さくさくと仕事をはかどらせるノマドワーカーにとってヨダレものHubudの環境はメンバーシップで実現化される。


実際その場を見せてもらったけれど、シリコンバレーからやってきた私にとってはなんとなく懐かしささえ覚える環境だと思わされた。Googleのような今時のITオフィスのような自由な居心地の良い空間がそこにあった。3日間のスタートアップイベントはそこで開催され、Mはそこで自分の会社のスタッフになり得るかもしれぬ人材を探しにやってきたということだった。





私と知り合ったその日はイベント最終日の打ち上げパーティがあるということで、Bisma Eightという高級ホテルでのバッフェがあるから、そこを覗いてからデートしようということになった。


実際行ってみたら本当に素敵な場所だったので、そこのバッフェを食べなからいろいろ話をした。ホールではスライドが流れイベントが行われていたが、Mは特にそれを気にすることもなく静かな場所で私と話をすることを望んだ。


「いいんだよ、イベントに来ている連中たちは俺の子供になれるような若いもんばっかりだし。俺だけおっさんで浮いてるんだ」


「で、遠いところからやってきた価値はあったわけ?」


「う~ん、君と出会ったことがベストなことかな」





エクスタティックダンスの会場の端に敷いたヨガマットの上で体を揺らして踊っている、毛深いハゲのおっさんを発見した。


若い子たちが汗まみれになって移動しながら踊っている中、ホールの端から離れない年配の彼を目にした時、多分に脚が悪いか何かの障害があるからそうしているのかなと思い、そんな彼の前で向き合って一緒にシンクロして踊った。視線を合わせ反応と笑顔が良かったので、しばし踊った後ハグをして離れた。


後ほどダンスホール外で休憩している彼に気づき、挨拶したら飲みかけのヤシの実ジュースをシェアするかと差し出してくれた。それを受け取って飲んだ。


話をしてみたら外見で想像していた声と雰囲気が全く違っていたので意外な感じがした。


ベイエリアから来ているということでお互い話がちょっと弾みまたダンスに戻ったけれど、終わったときに荷物を取りに行ったら、同じロッカーを使っていたのでまた顔を合わせ、その流れでランチを一緒にした。


迎えのタクシーが来たので慌ただしく席を立った。彼に午後は何をするのかと尋ねられたけど、とりあえずシャワーを浴びて昼寝なのだと告げ、Lineで繋がっておいた。こちらからは連絡するつもりはなかったけれど、とりあえず5時半くらいからなら行動してもよいと告げておいた。


彼から連絡がないとしても当たり前くらいの気持ちでいた。ウブドには、特にYoga Barnには女の私から見ても若くてセクシーでつい見入ってしまうような白人女子が腐るほどいる。私と別れた後でそんな中から一緒に遊ぶ相手を見つけたとしても不思議ではない。だから5時半きっかりに彼から電話が入った時には、ちょっと驚いたくらいだった。





会話は尽きなかった。彼の見かけから、そして話の内容からして彼が私よりかなり年上であるはずなのは確かなのだけれど、彼の声とその話し方、行動や感じられるそのエナジーの違いに戸惑ってしまう。彼の肉体を目にしていないと、まるで30代後半の男性と話をしているかのような気にさえさせられるのだ。


そして、誰かに似ている。顔と話し方と行動に親しみがある。TVシリーズに出ていた誰かかもしれない。そう思いを巡らせていたら、彼がユダヤ人であることを打ち明け、途端に家の近所に住んでいたユダヤ人の男性を即座に思い出した。「もう、しょーがねーなぁ」と思わせる、うざく、でも憎めない不思議なあの男性と存在が被った。



それから少し彼と一緒の時間を過ごしたけれど、タイに戻った彼から動画が送られてきた。「これが俺の新しいオフィスだよ」って、ビーチヴィラのテラスから360度ぐるりと撮影された映像。







水際まで36歩だってさ。おい、いいなぁ!


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