10/30/2016

『旅体力』の低下

街中はハロウィン一色になってきた10月の末。サンフランシスコの部屋を離れる引越しでハロウィンイベントはなし。11月から2週間夫の住む家に戻り、再度アメリカを離れる準備をする。




10月中旬に、カナダはバンクーバーの友人を訪ねた。旅行というほどのものではなく、移民手続き関係でしばらくカナダから出られない彼女を知り、私の方から会いに行った。前回大阪で会ったのはいつのことだったろう。

空港で声をかけられた時に、あまりにも違う雰囲気の彼女に驚かされた。単に年をとったというだけではない、顔つきに著しい変化があった。母親の顔だった。

友人に隠れるようにして6歳の息子が恥ずかしそうに挨拶をする。前回は彼が幼稚園に行っている時間だったので会うことはなかったが、彼女がブログに写真を頻繁にアップしているので顔は見慣れている。彼は英語だと安心するらしく英語での会話ですぐに打ち解けてくれた。

バンクーバーは10年前に旅行で来ていた彼女と落ち合った以来の街だ。あの時はオリンピックで地価が沸騰している話題で持ちきりで、いつしかオリンピックは行われ知らぬ間に終わっていた。うなぎのぼりだった物価の上昇も最近になって少し落ち着いているという。

オリンピックの聖火台がある公園を散歩しながら話し、翌日ハイキングに一度行ったくらいであとはとにかく私たちは話し続けた。昔話は楽しい。25年前に1年だけ同じ職場で働いていたというだけの関係なのに、こうして機会があれば落ち合って話ができる関係を築いているのも、彼女が大阪の人間だからだと思う。

私たちは10歳年齢が違うが、45歳の彼女が著しい衰えを自覚していることを語っていた。なんでももう旅の計画を立てることが苦痛だという。たかだか一泊するための宿泊地を検索することさえも面倒だというのだ。だから私が今こうして旅をしていることに驚愕と尊敬の念を抱いてると表現していた。あれほど旅をしたがっていた彼女の口からそう訊くのは意外な感じがした。

日本にいる時はママ友その他社会のプレッシャーで色々気をつかわなければならないけれど、ここバンクーバーでは何も気にせず服装さえも気にせず、購買欲もないという。シングルマザーの生活はしんどいけれど、日本にある面倒臭いこともない。息子がこちらで生活したいと望んでいるので、してあげられることをしてるという。確かに彼女の表情にあるのは、欲をなくした落ち着いた女性そのものだ。

旦那は日本で単身で仕事をしているけれど、数ヶ月に一度仕事の暇な時期にロングステイでやって来る。そんな彼と家族ごっこをして、それで全てがうまく回っているのだと説明した。一時は離婚を真剣に考えていた彼女が、意外な形で丸く収まったことに感心していた。




「普通はリビングに薄いマット敷いて寝てもらうんだけれど、息子が自分のベッドを譲るというからそうして。ギリギリで寝られるはず」

そう6歳の坊やから優しい提案をしてもらったのは良いけれど、そのマットの硬さと小さな布団に不安を感じた。そして、彼女たちと同室で寝た最初の夜はほとんど眠れていなかった。

考えてみると、バンクーバーに来るフライトからすでに私は疲れを感じていた。そしてこの硬いマット。幸運にもサンフランシスコの部屋のベッドは今までになくふかふかのお姫様ベッドだったので、それに慣らされた身体が悲鳴をあげていた。

「あぁ、これはヴィッパサナー瞑想合宿レベルの辛さだな」

そう眠りの狭間で思い出していた。

2日休みを取った彼女と過ごし、3日目は起きるに起きられず、仕事に出かけた彼女の部屋で情けないほどダラダラと過ごし、午後に近所にマッサージ屋を探しダウンタウンを軽く散歩するだけで終わった。『旅体力』の低下を痛感した。ダンスをがんがん踊っているから体力があるつもりでいたけれど、それとは全く関係ないものだということに気づかされた。

翌日はマッサージのせいでかなり楽になっていたのでありがたかったし、帰りのフライトも映画を見ているうちに着いたという感じで、少しの『慣れ』を意識した。これを知らずしていきなり日本に飛んでいたらどうなっていたことやらと少々焦った。私の身体も確実に衰えている。




彼女と息子との時間はとてもほっこりしたものだった。彼女は欲しかったものを手に入れそれに満足している風であった。彼女はいつでもガールフレンドであり、パートナーであり、そして母親である。『誰かのサポートして生きる』という役どころが性なのだろう。

友人が空港まで送ってくれて、クルマを降りたところでハグし別れを告げた彼女の顔つきは3日前のそれとは全く違っていた。昔のききっとした顔つきに戻っていた。




ぼちぼち考えていた計画に取り掛かり、綿密な旅のスケジュールを立て始めた。日取りや地理的な勉強をして訪れる場所や宿泊所をリサーチし始めると、ノンストップで根詰めて没頭する私だけれど、少なくとも面倒だという気持ちは起きていない。それどころか、全く皆無と言っていいほど知らなかった土地の特徴が、だんだん浮かび上がって来るという過程にエキサイトしている。素直に楽しい。

あとはどれだけ体力がついて来るか。それを後ほど実感することになるのだろうけれど。