11/16/2015

バリでダンス


バリのウブドにインストラクターがいて土曜の7時半から5リズムが踊れるとオフィシャルサイトで知ったときは心が弾んだ。日曜の朝にもYoga Barnでエクスタティックダンスのクラスがあるとホストが事前に知らせてくれたけれど、個人的には5リズムの方が好きなので、他の土曜の夜のイベントを差し置いてでも5リズムの会場に出かけることを最優先にした。

モペットタクシーの男に送ってもらい、Taks Spaという目的地についたら高級スパだったのでちょっと驚いたが、リセプションで会場を確かめたらダンスは行われていないと告げられて相当に面食らった。5リズムのオフィシャルサイトはそこまで詳細に責任を持っていないということだろうか。

「インストラクターのイミグレーションの問題で暫くダンスはないの。いつ再開できるかもわからないわ」

そう美しいバリ人の女性が愛らしいアクセントの英語で応え、私はしばし放心した。9時にダンスが終わるから迎えに来て欲しいと頼んだタクシーの男性の電話番号は聞いていない。

場所がどうやらウブドの繁華街ど真ん中らしく、周りには洒落たブティックが立ち並んでいるし人通りも多いので、どうにか時間をつぶせるものだろうかと歩き出した。寺院の前を取りすぎた時に、多くの椅子が並び人が僅かながら座っている。入り口のおっさんがチケットを販売しているので何が起こるのかと尋ねたらケチャックダンスだというではないか。あの長年憧れていたケチャックダンスを滞在二日目で偶然にも観ることができるのかと、ことの流れの幸運さに感謝し迷わずにチケットを購入した。75,000ルピーだった。

あと10分で始まるということだったが、観客はまばらで最前席のど真ん中が空いていたのでそこに座った。白黒チェックの布を腰に巻いた男性が中央にあるランプに火を灯していた。やがて照明が落ち、多くの色黒の半裸の男性が現れ円陣を作り「チャッチャッチャ、ケチャケチャケチャ!」と唄いだし、両手を振り掲げてリズミックに体を揺らす。衝撃的だった。




ケチャックダンスの存在を知ったのは、映画「続エマニュエル夫人」だった。当時中学生の多感な私にとって、乳房を露わにして藤の椅子に座るシルビアクリステルの映画館の街頭ポスターはショッキングなほどにセクシーで背徳的だった。実際に映画をこの目にしたのはもう少し後になってからだと思う。その時の私には彼女が大人だと思い込んでいたけれど、後で気付けば、最初の元祖エマニュエルでの彼女はとても若く、歳の離れた外交官の夫を南国に訪れてその地で性を開拓していくというストーリーなのだった。続編でケチャックダンスのシーンはダイナミックに紹介され、透き通るような肌の彼女がインドネシアのドラッグ小屋で数人の色黒の現地男性から襲われるシーンは過激だった。

そんな一部のシーンの印象しか記憶に残っていなかったから、その輪の中できらびやかな衣装を身につけた若い女性ダンサーや大きな身体の男性でストーリーが展開されるというのは、新鮮な驚きだった。

ショーは3部で構成されていた。ケチャックダンスの後、今度は中年以上の多くの女性たちが現れ唄い、その前で子供二人が操り人形のような踊りを展開させる。『サヒャンドゥダリダンス』というらしい。そのダンスが済むと、今度は大きな袋を抱えた男性が中央にその中身を山積みする。乾燥したココナッツの殻だった。それに石油をかけ火を灯す。やがてひとりの若者が藁の馬を持って現れ、焚き火の周りを踊り回り、やがてはその焚き火を素足で蹴散らしていく。暗闇の中でオレンジの炭火が舞い、男たちがそれを熊手で中央にかき集めると、再度ダンスが始まり若者は再度炭火を蹴散らしていく。案内には『サンヒャンジャランダンス』とある。英語ではファイヤーダンスと記されていた。

ショーは1時間で終わった。満足した面持ちで夜の街を流し、細い路地にある若い観光客で溢れるワルン(家族経営レストラン)で安価に夕食を済ませると9時になった。タクシーの男は約束通りTaksu Spa前で私を待っていた。




翌朝のYoga Barnまでも同じ男にライドを頼んだ。アイランドタイムを覚悟しているけれど、タクシーの男たちは競争が激しいせいか時間にはかなりきっちりしている。ステイ先のホストから、11時のエクスタティックダンスはとても人気なので事前に売り出されるチケットを10時にでかけてゲットしておくことと注意されていた。100,000ルピーでチケットを買い、時間までヨガバーンの外を歩いてみたが、クルマ往来が激しい道路際には魅力的なものは発見されず、それでもドーナッツショップがあったので、そこでドーナッツとラテで朝食を済ませた。悪くなかった。

ホストがそこを『キャンパス』と呼ぶだけあってYoga Barnは敷地の中に田んぼがあるくらい広い。離れた建物まで歩いてみたら、壁のないオープンなヨガスタジオになっていて、水田を目の前にヨガができるこの設定も凄いなと感心させられる。

エクスタティックダンスは150人で完売するらしい。2階のフロアでダンスが始まった。ほとんどが白人で中に日本人かもしれぬと思われる女性が二人ほど見受けられた。若い群衆がほとんどだったが、それでも年配の白人女性も数人見受けられ、少し安心した。

ウブドはハワイのように日本人で溢れかえる場所だと偏見を持っていた私は、日本人にあまり遭遇しないことに肩透かしを食らった。とは言っても、私は観光をろくにしていないし、まだ何も知らない。

Yoga Barnのランチバッフェは値段の割にとても豪華だからちゃんと食べてくるようにとのオススメに従い、60,000ルピーを払いカゴの上にバナナリーフが敷かれた皿を手に取った。サラダとバリ料理が並び、どれも美味しかった。席がいっぱいだったので、やむおえず4人テーブルに一人座る白人女性と相席したら、後からおっかけ友人らしきハンサムな若い男性二人が相席してきた。彼女はイギリスからオーストラリアはシドニーに引っ越してきて、そこでパワーヨガのティーチャーズコースを取っているとのこと。バリの旅はそのコースの一部らしい。20代と見受けられる二人の男性の片割れはニュージランド人で、私のヴィッパサナー経験に食いついてきた。オーストラリアに戻ったら彼もコースに行くつもりだと真剣な瞳で告げてきた。もう片割れのオーストラリア人はサンフランシスコベイエリアからやってきた私に興味を示した。なんと以前付き合った女性を訪ねて、私の住んで居るところからそう遠くない南湾の街に滞在したことがあるらしい。

「ラーメンの激戦地だよなぁ、あそこ」

ダンスをしているときから何度か目配せで笑顔を交わしたけれど、実際に話している青年はめちゃくちゃチャーミングだった。

間も無く彼らのグループはシドニーに戻るフライトをキャッチする。出会って直ぐにのお別れだ。Nice meeting youとお別れのハグをするけれど、半裸の若い男性を抱くのはどことなくくすぐったい。





予告編でも1:30あたりでケチャックダンスのシーンが出ています






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