11/14/2015

ウブドの森の中にて


今年初めにオアフに3ヶ月住んでみて、自分が海ではなく山の人なのだということを確信した。だからバリを訪れる際にも、迷わずウブドに滞在することに決めた。調べてみたら多くのヨギに人気の場所らしい。アートが盛んなことも私の気を引いた。

Airbnbには似たような安価の部屋が掲載されているので選ぶのに迷うところだけれど、イギリス人ホストでダンスを教え瞑想をする人、町からはずれた森の中の家ということ、一ヶ月のレントも掲載されていたからなんとなくでここを選んだ。手作りローチョコレートのビジネスを始めているといるというところも好感が持てた。

彼の場所にどうやって辿り着けばよいのかという質問に、住所に数字がないからクタのタクシーは無理ということで、彼の知り合いのタクシーが迎えに来るという。タイミング悪く、私が到着する日ホストはヴィザが切れるのでシンガポールまでの出入りをしなければならなく、彼の留守宅に到着するはめになった。

アイランドタイムを覚悟していたけれど、ピックアップのドライバーは予定時間より前にホテルロビーに現れたので感心した。ウブドまでの道のりは限りなく続く寺院と彫刻の群れで飽きることなかった。段々畑が見え始めたと思ったらUbudのサインが現れた。

側溝に沿った車が入り込めない細い路地をドライバーに荷物を手伝ってもらって300m程進むと、路地の終わりにホストの家があった。プライベートのドアがある二階の部屋を借りたが、決め手となったのがそのバルコニー。実際にその場に佇んで感動した。まるで深いジャングルのような植物の密度、バナナやヤシの木そしてプルメリアその他の花が咲き乱れていて、それに180度囲まれている。その木の間から微かに見える下方の段々畑。プルメリアの甘い香りに包まれて、すでに思いは満たされた。車が走るメイン道路の喧騒は届かず、それに代わって周りの家で飼われているのか、あちこちの方向から鶏の鳴き声が聞こえてきていた。その田舎さが気に入った。

タイル張りのバルコニーと部屋、バスルームはとてもシンプルであったけれど、部屋のあちこちに彩りよく置かれたたくさんの生花が5スターホテル並みの歓迎を表していた。




ホテル同様、ここでもWifiの速度は酷く遅い。自然の中のバルコニーのテーブルでしばしブログを更新、夕方にはかなり疲れてきたので軽く仮眠を取るつもりがすっかり寝入ってしまった。夜が更けると虫の音やカエルの声が響き渡った。不眠してた頃『夏の夜の虫の音11時間』という音声をYoutubeで聞いているとどうにか眠れたものだったけれど、これは本物の音なのだと半覚醒状態でニヤついた。一番鶏の声で意識が戻り時間をみたら夜明け前4時だった。ほぼ11時間ストレートで眠った。バルコニーに出て星を見てみたが曇り空のようだ。

部屋にはエアコンが付いていない。ドアを閉めていても天井のファンをゆるく回しているだけで十分に心地良い。日中でも外からの風が入ってくるので暑苦しくない。ウブドの山の中はクタよりも涼しい感じがする。

夜明けの瞬間虫の音が激しくなる。これは以前プーケットにいたときに経験した。陽が昇りきってしまうと虫の音が止み、かわりに鶏の声が激しく響き渡る。

まどろんでいたけれど、目が冴えてしまったのでコーヒーを入れてバルコニーで朝の空気を楽しんだ。7時に陽が高くなり温度が上がり始めると、バルコニー横のプルメリアが微香を放ち始めた。7時半になると、今度は違った良い香りが漂い始める。ヒンドゥーのカルチャーに基づいた花と共に添えられるお香の匂いだと気付いた。

朝食代わりにホテルから持ってきたアメニティのフルーツを食べてみることにする。グリーンの柑橘系は見かけとは違ってかなり柔らかく甘いみかんだった。硬いシェルのオレンジの果物を割ってみると、中にカエルの卵のようなものが詰まっていた。味には親しみがあったので調べてみたらこれがパッションフルーツらしい。とても美味しく見た目よりも口当たりはかなり良い。




ひとまずさっそくヨガのクラスで身体をストレッチすることにする。借りている部屋から一番近いヨガスタジオは徒歩で行けそうだ。地図を頼りに歩いてみたら、まるで人がやっと通り過ぎることができるくらいの田舎道をどこまでも行くので少し興奮した。ある場所は遠い幼児期に見た風景のデジャブーさえ覚えさせられる。田園のための水路沿いに道は続いていた。そんな中に現れた高台のヨガスタジオ。3面のガラスに広がる自然を目にしたとき、一瞬こみ上げるものがあった。視界が広く、遠くヤシの木と段々畑が広がる光景は美しさこのうえない。今までで訪れたヨガスタジオの中では最高のロケーションだった。

帰り道にギャラリーと看板が出ているところをいくつか覗いてみた。双方とも老人男性で、日中の一番暑い時間帯のせいか二人とも半裸でいた。地元生まれれでウブドの風景を描く老人は1964年から描いていると言う。かなりのディテールに凝った細やかな作業だ。

借りている部屋の通り道の家は15年前に隠居でやってきたスイス人の男性が自分の作品を公開していたが、作品は女性の裸像が殆どであくまでも趣味の域のものとしか思えなかった。しかし、その大型作品のサイズには圧倒されるものがある。彼の健康状態を疑うくらいのやせ細った身体としゃがれた力ない声はそう長くない余生を思わされた。それでも煙草を吸い続け好きな絵を描いて毎日を過ごせるなんて本望だろうなと思う。家族のことは尋ねなかった。故郷から遠いこの島が彼の選択だった。

多くの時間をこのバルコニーで過ごす

道端で見る供物

カエルの卵のようなパッションフルーツ

ヨガスタジオの風景







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