4/13/2016

元夫のムーブオン


元夫が家に住んでいるので荷物を置いておける利点があるうちだけできるノマドライフ。数ヶ月毎に顔を合わせ短期に家に滞在することで元夫との関係が客観的に見えてくるような感じがする。

リタイアした彼が2月に1ヶ月間インドとスリランカの旅のツアーに参加していたのは驚きだったけれど、今回3月頭に帰ってきて、空港に迎えにきてくれた彼が顔を合わせるなり4月にも2週間ハワイはカウアイ島に出かけるとの報告があった。

「女と出かける」

「あ、そうなんだ」

彼が言葉少ないので私も深く追求することはしなかった。




私の滞在中はキッチンでたまに顔を合わせれば普通に話をしていたけれど、彼は毎日こざっぱりとした格好でどこかに出かけて行き、長い時間帰ってこないときもしばしばだった。

夜は夜でもう8時半から9時くらいにには部屋にこもってしまい、ドアの向こうではずっとぼそぼそと誰かと電話で話をしている。こんなのは以前にはまったくなかった。

インドの旅の続きなのだからそんなに新しい服もいらないはずなのに、部屋には新しい服が山積みになっていたし、どこか気合い入ってるなという感じがする。

新しいガールフレンドの存在が、彼をさらに穏やかにしている感じもうかがえる。




最新の超軽量のMacbookを購入したのでiPad miniはいらんかな、と旅の間家に置いてきていた。

元夫に使うならどうぞと渡しておいたのだけれど、結局は使わないらしいので、今回サンフランシスコ市内での生活に持ってこようとしたら、リセットしてなかったので夫のメールがろこつに出てきてしまったのには焦った。

覗いちゃいけないわよねぇ〜って思いながらもつい見てしまったら、結構な量のオンラインデートのリスポンスが残っていた。それもひとつのデートサイトだけではなかった。

以前婆友がオンラインデートサイトに登録したらおすすめの相手に元夫のプロファイルが出てきた、と報告してくれたので、それなりにしてることは知っていたけれど、複数のサイトに登録してこれだけのコレスポンデンスがあるとは意外だった。

どうせまた若いアジア人の女狙ってるでしょ、と思っていたのだけれど、なんと彼はほぼ彼と同じ年の60代後半から70ちょいの白人の女性とやりとりしていた。

さすがにさらっと流してすぐリセットしたけれど驚いた。




家でだらだらしていると、離婚の発端にもなった元夫が好きだったご近所の女Dが犬の散歩の途中でドアベルを鳴らし以前のように部屋でしゃべっていったけれど、その話をしたら彼女も驚いていた。

「白人の女って、多分ジューイッシュ女なんじゃないかしら。以前グループで遊んでいたときにも彼はジューイッシュのおばちゃんたちとウマがあってたから」

そう言われてなるほどねと納得した。

再婚して遠くに移り住んでいたお隣さんが、12年間他人に貸していた家に戻ってきた。私が離婚をしたことを報告すると、特に驚くまでもなくさらりと納得していた。

彼女はかなり私より年上だろうけれど、離婚経験者であれば共感できることはあるのだろう。他人行儀な隔たりもなく、女としてさらりと本音を話すことができる関係というのはありがたい。




「俺はもう長くない。身体で感じるんだ」

同情が欲しいのかそれともシンプルに現状報告なのか、元夫はそう言うけれど、彼は10年前からそう言い続けていた。

「だったら、身体が動くうちにアシスタント付きのリタイアメントコミュニティーに引っ越ししておいたほうがいいよね。私がどうこう決めることじゃないだろうけれど」

私にはそのくらいのことしか言えない。

「今はまだ決めたくない。あと1年家を売るのを待ってくれ」

彼がそう言うから私は彼の望むままにする。年寄りにプレッシャーを与えたくない。

もしかしたら、今付き合っている彼女と一緒に住むという可能性もあるのかもしれない。それを思ったら今下手に無駄な動きをしたくないという彼の気持ちは十分に理解できることだ。そしてその分、私にも放浪ができる時間が増える。




「俺もお前を見習ってポジティブに生きなきゃな」

前回私が家に戻ってきていたときにそう言った前夫には驚かされたけれど、その結果ががんがんオンラインデートにアクティブになることだとは予想はしてなかった。

70歳。長い間心配していたパーキンソン病も良くはならないが悪化することもなく止まっているという感じ。

弱っちい感じだけれど、着ている服や靴は真新しくセンス悪くないし、清潔感には溢れているから、同じ年頃の女性にとったらグッドキャッチなのかもしれない。

体力とか行動範囲とか共感できることが一緒で、スローな時間を過ごすことができる相手が年寄りには一番良いし、それは私ではない。

バイタリティがあるうちの17歳差はなんら問題はないけれど、お互いの体力と世界が変わったときに、どちらかに相当の負担がかかるのが『歳の差結婚』だろう。




そんな女ができたら自分がぞんざいに扱われるかと思えばそういうわけでもなかった。

家族というか親戚のような感じで、ケアすべきことはちゃんとやってくれる。怖かったけれど、私もどうにか独立できるようになった。

財産分与についても元々は彼のお金なんだからと私から求めるような言葉は出さなかったし「それじゃダメよ。今のマーケットが家の売り時。損するわ」って周りのアメリカ人女性からは言われるけれど、それ故の結果彼が私に与えてくれるものが増えていっているのは事実だ。

やっぱりお金に変えられないものはある。




サンフランシスコ市内に二日かけて引っ越し。

1日はMINIに荷物を詰め込んで運び、クルマは家に置いておくことにして翌日は電車で市内の新居に移動した。

タクシーで駅まで行くつもりでいたけれど、元夫が送ってくれると言う。

「一ヶ月も長い間居候させてくれてありがとうね。何か必要なことがあったら言ってね。いつでも戻ってくるから」

クルマを降りるときそう告げたら

「問題ない。必要ならいつでも頼ってくれていいんだよ。気をつけて暮らせよ」

そう言ってくれた。




こだわりもわだかまりも、後悔も甘えもないクリーンな感情。『エモーショナルハイジーン』というのはこういうことをいうのだろうなと思う。

「旦那さんはたくさんのお金を残してくれるわ。そして、父親のようにあなたが独り立ちできるように世界に送り出してくれる」

自分の生き様が残した結果ではあろうけれど、14年前に怪しい占い師にそう言われたことがある。その言葉をふと思い出した。