10/18/2014

恋はハワイの風に乗って 完結編


翌朝、やっさんとほーちゃん、あられの3人は朝9時前にはもうチェックアウトしてしまっていた。残りはチェックアウトの前に朝食へと降りてみたけれど、予約をしていなかったためにどこでも待ち時間が長くてアウトだった。どうしようと放心した私たちに、おかまくんが「部屋でラーメン作ってあげる」と言い、まさかと思ったら本当に卵入りの味噌ラーメンがでてきたので驚いた。鍋をダイニングテーブルの真ん中に鎮座させ、釜揚げうどんのようにボウルにすくいあげて食べた時には大笑いしてしまった。ハワイのディズニーリゾートの朝とは思えない光景だった。

チェックアウトは朝10時と早く、私たちはとりあえず荷物をクラークに預け、やりこ親子が空港に発つまでロビーで過ごした。いつのまにかぬりこがロングアイランドアイスティーのボトルを購入し、それを瓶から直飲みして朝から酔っぱらっていた。ぬりこはシラフの時には上品ぶっていて、ときどき私がレストランでエロ話に花を咲かせていると下品だと嫌がるくせに、酔っぱらうといきなり体育会系の男になって荒れる。今回も一緒にいるのが恥ずかしいくらいで、さすがのやりこの息子も抱きつかれて「酒臭い〜」と嫌がっていた。ロングアイランドアイスティーとは名前だけで、カクテルそのものは確かワインと同じくらいのアルコール度だと思う。

やりこ親子が去り、プールサイドのカフェに移動してそこで酒を飲み始め、そしてぬりこも本物のパイナップルをくり抜いた容器のカクテルを抱えてホテルを発った。本当に『嵐が去った』という感じだった。




おかま君と私とようちゃんは、チェックアウトをしたにもかかわらず、夜まで丸一日リゾートで過ごす。サンフランシスコ行きのフライトは10:50pmというぎりぎりまで時間を使えるスケジュールにした。タオルをゲットして「さぁて」とプールを楽しもうとしたけれど、昼近いその時間ではプールサイドのチェアーの空きを見つけることは不可能だった。一応『一時間リミットポリシー』とやらを念を押されたけれど、それを守っている人なんていないんじゃないかと思う。

仕方がないのでビーチにでたけれど、空いているビーチチェアーは炎天下でそれもまた不可能だった。それで椰子の木陰にタオルを直に敷いてくつろぐことにした。周りは空いていてなかなか乙な環境だ。直ぐ隣にあるチャペル前のビーチでは、式を終えた日本人カップルが写真撮影をしている。炎天下の撮影も大変だなぁと思いながら見ていたけれど、ふと気づくと次から次へとカップルが変わってゆく。そういえば、ウエディングプランナーが、一時間刻みで式が行なわれるとか言っていた。多くの人々がハワイのウエディングを夢見るのだと。

椰子の木陰でのんびり過ごすリゾートは最高だった。

「あぁ、本当にこれが『楽園』なのねぇ〜」

ようちゃんが遠目に海を見つめて呟やく。今回彼女とじっくりといろいろ人生のことを話した。外資で働く42歳独身は、けっこうな悩みがある。もう結婚を諦めてマンション購入を決めているのだそうだ。

そんな矢先に、はんこと盛り顔の女がワイキキからやってくることになった。登場した二人はビーチが似合うセクシードレスだったけれど、何故かバッグはヴィトンヴェルニだ。到着するや否や酒をいくつも購入して飲み始める。相も変わらず『盛り顔』がこき落とされる会話が続く。

「いや〜ん、おまこさん、セクシー!」

何気に転がっていたら、盛り顔が私のポーズがセクシーだとおだて始めた。

「あんた、さげまんになってんじゃないわよ!おまこ見習いなさい。このヲンナあげまんなのよ!せっかくだから、おまこのあげまんを拝んで帰りなさい!!」

そう、おかま君が盛り顔に命令すると、ノリの良い盛り顔が私の背後から拝みのポーズに入った。



コミックアプリで遊んでみました


でも、マンを拝むというより尻に拝んでいるという感じだったので「んじゃ、せっかくだから」と、私も悪ノリしてくるりと向きを変え、ぱかっと開脚をしてみせた。すかさずおかま君が写真を撮る。



これぞ私のマンパワー!

さすがにこんな写真をネット公開したらどこに流れて行くか解んないものね



私ったらなんてヲンナ。撮った写真を見て爆笑の私たちだったけれど、確かにまぁこんなことする機会なんて滅多にないし、こんなポーズの自身を目にすることもなかった。後ほどグループLINEに写真をあげたら、あそこの脱毛をするさっぱり顔の女子が「アジア人のわりには、股間が黒ずんでなくて綺麗ですね。珍しいですよ」というコメントをしていた。そう言われて、スマホで拡大して見てみたけれど、確かに私の股間はふつうに真っ白に綺麗だ。黒ずみって長年下着のゴムが当たったりするとできるとか聞いたこともあるように思えたけれど、昔から緩いThongだけをはいてきたということも、こういう結果に影響するのだろうかと考えた。いずれにせよ、今まで気づかなかった自身を知った瞬間だった。




目の前のビーチにグループがやってきてセッティングをし、小物を使ったブートキャンプのようなゲームが始まっていた。それを眺めていたおかま君がいきなり「さぁ、ガールズ、はりきっていくわよ!おまこ、写真撮って!」と、そこに置いてあったパイナップルの小物をいきなり盗み取ってビーチに走り出す。女子達も素早くそれに続いた。コーチのお兄ちゃんはあっけにとられてぽかーんとして彼らを眺め、私は「すみませんねぇ」みたいな困り笑顔でおかま君を追った。パパラッチのように速攻で写真を撮ると、おかま君が走り出しパイナップルをまた元に戻す。その瞬間芸はあっという間だったので、コーチのお兄ちゃんも苦笑いで何も言わずに終った。本当におかま君って凄い。



盛り顔、おかま君、はんこ




そんなこんなのうちに時間になり、はんこと盛り顔はワイキキに帰って行った。おかま君は送りがてらに彼女達に小さなミッキーを思い出にと買ってあげたらしい。

チェックアウトしたゲストは特別なカードキーを貰ってシャワーとロッカールームを使用することができるのだけど、その場所を見つけるのにとても迷った。なんとなくわざと解りにくくしているような気がしないでもない、とようちゃんが言う。その場所は本当に小さくて特別な所だったから。最後の晩餐をしていたときに、チャーからテキストが入った。サンセットの写真と共に「これを一緒に見ているのかな」とあったけれど、実際バタバタしていて逃していた。

「なんだか長いハワイ滞在だったなぁ。私、ここに着いたときは友人を亡くしたばかりで凄く落ちてたんだよね。それもいつの間にか思い出さなくなっていた。ハワイで癒されてよかったわ〜」

タクシーで空港に向かいながら、そう思わず呟いた私だった。

「おまこちゃん、そんなことあったんだ〜。離婚もそうだし、大変だよね。実はね、あられも元気にしていたけれど身内の不幸があったの。あのまま家にいたら落ち込むからって、わざとハワイに来ることにしたんだって。みんな人生いろいろあるよね〜」

そうだったのか。ひょうひょうとしていたあられだったけれど、一言もそんな話はでてこなかった。




飛行機の予約は別にしていたので席は離れていた。サンフランシスコ空港に到着したのは朝の7時半。夕べ珍しくも夫から「迎えに行くから着いたら連絡しなさい」とテキストが入っていたので、へぇっと思った。それで、スーツケースを拾ってテキストしたら、夫はもう外で待っていた。空港に迎えに来てもらうのも久々のことだし、いつもなら連絡してから家を出るような人だったのに。

ようちゃんはハワイに引き続いてサンフランシスコの旅が始まる。お別れを言うまでもなくまたそのうち会うことになるだろう。彼女がトイレに出かけてはいたけれど、そんな訳でおかま君にさよならを言って空港を後にした。

「ハワイはどうだった?」
「う〜〜〜〜〜ん、あそこはバケーションででかけるから良いのであって、住む所ではないのかも…」

夫の質問に、私はためらいがちに言葉を返す。

「ふむ…そうか」

それを聞いた彼は短い言葉を返して来ただけだった。が、それがどこか安堵感を伴うような声色に聞こえた。

クルマの窓を開ける。早朝のサンフランシスコの空気は温かくでも乾いていて、とてつもなく爽やかだった。

(完)



ビーチからの眺め






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