10/08/2014

恋はハワイの風に乗って 19


結婚式が行なわれるWaialae Country Clubはカハラハウスから歩いて行ける距離だけれど、ドレス姿で汗をかきたくなかったのでSmartで出かけることにした。

「あそこのパーキングは高いから、手前の公園に停めた方がいいわよ」というテスのアドバイスに従ったのに、日曜のその日はそこも一杯だった。仕方がないのでカントリークラブに停めようかと出たら、路駐ができる小さいスペースが空いていた。もちろん、Smartだから可能な小さな小さなスペースだったのだけれど、思わず自分の『パーキング運』を思い出して笑ってしまう。

幾度となく参列したアメリカの結婚式は毎回良い気持ちにさせてもらえる。日本での結婚式への参列といったら、確かOLをしていたときの同僚と、後は従兄弟や姪のそれしか記憶がない。結婚式の招待状を貰ったことは何度かあったけれど、全く疎通がなかった旧友からいきなり結婚式の招待状を送りつけられると面食らう。日本の結婚式の退屈さ、そしてお祝い金が経済的に痛いことから、貧乏時代の自分は疑問を感じつつ義理で出かけるなどということもしなかった。そういうところでは割と冷淡なのかもしれない。

はんこの結婚式はアメリカのトラディショナルなそれと日本のそれをちょっと合わせたような形にしていた。アメリカのそれでは確かキャンドルサービスなんて見たこともなかったことだし。夕方の斜めの光を浴びながらのガーデンでの人前婚は本当にお洒落で、シャボン玉や薔薇の花びらが美しく舞った。ロマンチックなそれに、日本から駆けつけていたさっぱり顔と盛り顔の女達は、この結婚式を本当に羨ましく思っていたようだ。

そろそろレセプションの会場に移動というころになって、おげげのぬりこが「酷い〜、誰も起こしてくれなかったわ」と大騒ぎしてやってきた。起こしてくれなかったって、もう夕方なのに。昨日も今日も式を逃した彼は一体何しに来たというのか。「腹へったわ。待ちきれないわ」って言って、彼は引き出物のきんつばをがさがさ開けて食べていた。本当にがさつなおかまだ。

はんこは式に登場したときからずっと子供のような笑顔で、心から喜んでいることは間違いないようだった。あれほどのマリッジブルーも、いざ式を済ませてしまえばもうふっきれたのだと思う。後は自分が幸せになるために一日一日を過ごすしかない。彼女はそれができる女性だ。

レセプションでのお決まりの花嫁と父親のダンスのときは、何故かしら泣けて泣けてしかたがない私がいた。今はもう亡き父とそういう機会を是非持ちたかったものだと痛感した。父親と踊るってどんな気持ちなんだろう、と。

総勢160人の招待客と、贅沢にセットされたガーデンの挙式場のセット、レセプションのマントルピースで豪勢に使われた薔薇の花の量を思うと目眩がしそうな感じだったけれど、花婿の器量を思えば容易いことだったのかもしれない。帰ろうとしてパーキングを横切ったときに、超高級車が沢山並んでいたので納得した。花婿はフェラーリを所有しているとのことだったし。




結婚式のイベントは翌日更に続き、今度は花婿の父親が日本人の参加客を彼が所属するヨットクラブでのブランチでもてなしてくれた。昨日帰り際にいきなりはんこからそう告げられ「アウトリガーでね」と言われた言葉だけが頭に残り、ワイキキのアウトリガーホテルを目指したけれど誰もいないので変だと思ってテキストを確認したら、まったく違う場所だったので焦った。最近本当にこういう自身の勘違いと詰めの甘さでの失敗が目立つ。以前はそういう自分ではなかったので、これも歳なのかなぁと、本当に情けなくなる。

なんとなく察していたので、かっちりしたコットンのサマードレスにシャネル引っさげで出かけてみたら難なくパスできたけれど、おかま君はゲイ丸出しの肌が大きく露出したVネックTシャツで出向いて入場拒否されたらしい。花婿のお父さんが出て来て入れたみたいだったけれど、花嫁もとんでもない友人を持ったと思われたことだろうに。




「ねぇ、おまこの行くんでしょ?ディズニーリゾート」
「え、私、行かないわよ」
「嘘、やだ!おまこ行くんだと思ってた。ねぇ、行こうよ、折角だもの行こうよ!」

贅沢な種類のバイキングで丸テーブルを囲んでブランチをしていたら、やりこがそう迫ってくる。

先日ようちゃんとワイキキビーチでまったりしていたときにも、同様に突っ込まれた。私には身の覚えがないことで、おかま君がハワイに来る少し前に「ディズニーリゾートにいくの」と言ってきたのだった。私と彼は夜遅くの帰りのフライトを合わせておいたのに、いきなり彼がそう言って来たので困惑した。最終日が別行動になるのだったら、フライトまでの時間をどう過ごしたら良いのものだろうか、と。

「やだ、おまこがメンバーに入ってるのだと思ってた。確か薔薇さんのリストに入ってたと思ったけれど。あれ、私の勘違い?あれ?あれ?」
「そんなの聞いてないし。私、最終日までカハラハウスの部屋借りてるし」
「なんかさぁ、薔薇さんって言葉少ないから計画立てるのもひと苦労なのよね。やだ、どうしよう!」
「ようちゃんが困る事ないし。とにかく薔薇さんが来てから悩もうよ」
「そうか。そうよね」

そんな会話があったのだけれど、結局薔薇がやってきたら私は人数分に入っていないとのことだった。それでようちゃんが一人追加できるのかと突っ込んだのだけれど、薔薇の返事がはっきりしない。

「行って入れないってことになったら嫌だから行かない」

そう言い切った私なのだけれど、このブランチで再度やりこが食い下がってくる。やりこが薔薇さんに突っ込むと、今度は「う〜ん、多分大丈夫かと思いますけれど…」と言葉が重い。

おかま君も「よく解んないのよ」と言うばかりだったので、呆れた私は最終日はチャーと過ごせばよいと思っていた。なんだったらフライトを早い時間に変更してもいいし、カハラハウスはもう支払済だったけれど、彼が望めばチャーのところにお泊まりをしてもよいかも、とも思っていた。旅の最後にこの男との成り行きがどうなるのか見極めてみたいところもあったのだ。

「子供一人入ってますから、どうにかなると思いますよ」
「ほら!おまこ、行こう!」

そう薔薇が言い、やり子が自信たっぷりに言い、そこまで言われると私も行かねばならぬような気持ちになってきた。

「本当?これで入れなかったら怒るわよ。やだ、どうしよう?えっと、じゃぁ、今から帰って荷造りしなくちゃ!3時集合ね?」

そうと決めたらもたもたしてられない。なんてハプニングだ!私は慌てて席を立った。




「いきなりだけど、私、チェックアウトするわ。話の流れで友人達と今晩はディズニーリゾートに泊まることになったの。テス、今晩は私のベッドで眠れるわよ!」

カハラハウスにはゲストが増えていた。テスは自分の寝室を宿泊客に明け渡すので、今晩はリビングのソファで寝ると言っていた。

「へぇ、いいわね。私、まだ行ったことないのよ。あなた、ずっと忙しくしてたけど、最後まで本当にアクティヴだわね。でも、時々一緒に過ごした時間は楽しかったわ。keep in touch.ハワイに移住することになったら連絡してね」

最後がバタバタで申し訳ない気もしたけれど、気さくな古い友人かのように会話ができたテスの家の滞在はそれなりに居心地がよかった。蚊さえいなければ最高だったよね。

焦る心を抑えつつ荷造りを済まし、チャーに連絡をとり彼のコンドを目指す。出雲大社で買っておいたお守り、はんこには結婚式で渡せたけれど、チャーの分を渡しておかないといけない。



父親とバージンロードを歩くブライド


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