10/10/2014

恋はハワイの風に乗って 20


日本の出雲大社がそうであるかは知らないけれど、オアフの出雲大社でお守りを購入した際に、三角に折り畳まれた紙に包まれたお清めされた米粒をおまけで頂いた。『blessed rice』と書いてあるそれは、ご飯を炊く際に混ぜて頂くとご利益があるというもの。

白人であるチャーにお守りとそれを渡したらどう思われるかなとか懸念したけれど、彼はとても感動してくれた。

「この滞在中にお泊まりしてみて、一緒に寝て眠れるかどうか試してみたかったけれど、その機会がなくなっちゃった」

そう告げたら、彼はさほど残念そうでもなく「君がハワイに引っ越してきたらいくらでもチャンスがあるさ」と笑った。

「うん、その引っ越しだけれどね、多分に私、それはないと思う…」

チャーの顔が曇る。私はダイニングテーブルに落ち着き淡々と話し始めた。

「オアフに住むのはなんか違うかな、って思えたのが結果かしら。みんながいいっていうハワイだからどれだけいいのかって思ったけれど、それはバケーションだからそう思うんであって住む場所じゃないかも、って。経験を積む度にサンフランシスコベイエリアの方がいいって思ってしまうの。ハワイにあってベイエリアにないものって、遠浅の綺麗なエメラルドグリーンの生暖かい海と湿った生暖かい風くらいで、あとはベイエリアよりも『しょぼいな』と思うばっかりだったのよ。あなたとかなりしんどい山登りも楽しんだけれど、それだってベイエリアにはもっと豊富な自然があるし、それほどの感動ってこともなかった。ハワイだから人々はのんびりしてるのかと思いきや、オアフの人は日本人観光客に疲れている感じで、日本語がきつかった。みんな仕事にすっごく忙しくて…」

チャーのコンドミニアムの15階の窓から遠目に見えるワイキキのビルと海を見ながら、私は続けた。

「日本人多いし、日本食いっぱいあるし、温かいから住みやすいかなとか単純に思ったオアフだったけれど、家は古いし汚いし、物価高いし、交通状況最悪だし、パーキング事情は酷いし、でもホノルル離れたら日本の何もないし。日本食の質だって正直ベイエリアの方がずっといいって恋しく思ってたの」

そこまで一気に言ってからふと気づくと、チャーはいつのまにか放心したような表情をして床に座り込んでいた。彼の手が私の素足を包み、マッサージとまでいかない圧力で足を愛撫している。何故にしてそんな行動をとるのか、私ってまるで女王様じゃないのよ、となんだか妙に切なくなった。

「僕はこの島が好きだけど、君の期待が裏切られたことを残念に思うよ。日本人としてそういう視点があるなんて、僕はこれっぽっちも知らなかった」

重い沈黙が続いた。私にはそれ以上の何も言うことはない。その沈黙をやぶるようにチャーが明るい声で続ける。

「サンフランシスコは遠くないさ。飛行機に乗るだけ。君が望むならいつか会いに行くよ」

それが心からのものかどうか解らないけれど、とりあえずその場をしのげたのでほっとした。結局私は、彼ともっとの時間を過ごすことより、友人達とのディズニーリゾートを選んだ。それだけの関係なのだ。

「これからSmartをリターンしなくちゃいけないし、時間がないの。ごめんね」

チャーがガレージまで送ってくれる。

「ディズニーリゾートは行ったことがないから、是非写真を送ってくれよ。気をつけてね。君と一緒に過ごせて楽しかった」

チャーがおでこにキスをしてくれて、私も慌ただしくクルマを発進させた。別れは意外とあっさりとしていた。




Smart Car Rentalのオーナーは穏やかな性格の小柄な日系人男性で、言葉は少ないれど好感度大だ。Yelpの評価が凄く良いのでここを選んだのもあった。

「へぇ、250マイル近くも走ったんだ。凄いね」

点検を済ませた彼がふふっと笑う。ホテルまでタクシーを呼んでくれるように頼んだら、このままこのクルマで送ってくれるという。意外なサービスに嬉しくなった。

クルマの中でいろいろ話した。彼はハワイ生まれのLA育ちで、成人になってからこの島に戻って来て以来ずっとワイキキに住んでいるらしい。この島が好きだと。日系人として生きるのにLAよりはオアフの方が待遇がいいのかな、とそんなふうに考えているうちにホテルに到着した。タイミングよくやっさんがどこからか戻って来たところに鉢合わせして、男とクルマに乗っている私を発見した彼が驚いた顔を見せた。

「じゃぁ、ディズニーを楽しんで来て」

走り去るSmartを見て「カーレンタルの人なんだ」と、やっさんがちょっと安心した表情で笑う。

薔薇さんがチャーターしたバスが来るまでには間があったけれど、ようちゃんと後から到着した女子二人はしつこくもまたアラモアナにショッピングに出かけているということだった。テキストで連絡したら今から出るという。着くのはバスが出るギリギリの時間っぽい。

チャーからテキストが入る。

『君の赤い小さなクルマが走り去るのを見えなくなるまで見送っていた。もう既に君のことが恋しい』

別れ際はあっさりだったけれど、それなりに切ないメッセージにきゅんとした。

ロビーでバスを待っている間、おげげのぬりこはやりこの5歳の息子を構って幸せそうだった。本当に子供が好きみたいで、いつか養子でも育てそうな勢いだ。

バスが到着して荷物を積み、私たちが乗車して苛つく頃、やっとようちゃんと女子二人が汗だくで到着した。そしてバスがオアフ西部のディズニーリゾートを目指す。総勢10人が乗ったバスは私が土壇場で参加した結果で満席状態だった。みんなの言葉が明るく弾む。私もこういう機会は滅多にないのでどこかくすぐったい気分だった。この気持ちがデジャブーな感じがしたので何かなと思ったら、数年前に実家に里帰りをしたときに、家族総勢10人で鬼怒川温泉旅行に出かけたときのことが思い出された。足が不自由な母はもうそういう旅行には出られない。あれは本当に良い思い出になったのだ。




一時間半ほどくらいだろうか、バスがKo Olinaの名があるゲートに入ると、グリーンで美しく整備されたゴルフリゾートが広がった。そして突然オンラインデートサイトで知り合った、今回の滞在中にデートする筈だった『駒2』のことを思い出した。

「あぁ、そういえば私、2年前にここに家を買ったっていう男とデートする筈だったのよね〜」

そう思わずつぶやいたら「でっ!」と誰かが言い「さすがおまこね」というおかま君の声が後方で上がった。

「で、どうしたのその人?」
「ん〜、なんか縁がない人で、初日にドタキャンされて、2度目のチャンスもキャンセルされた」
「だっさ。スルーした方がいいわよ。そういう男」

そう言ったのは、3人の子持ちでやり手キャリアウーマンの『ほーちゃん』だった。そう言われたにもかかわらず、同時にぺけぺけとテキストを打つ私がいる。予定はしていなかったけれど、彼が住む土地に私はやってきてしまったのだ。知らせない訳にはいかないだろう。




ディズニーリゾートはティキハウスとでも言えばよいだろうか、木造の三角の屋根を意識したデザインで、中に入るなり私たちの心は踊った。着くなり「アロハ〜」と係員からウエルカムのレイを首にかけてもらう。「あぁ、そうよ。これが正しいハワイ到着の気分なのよ」と痛感した。敷地の中心にはいかにもディズニーらしい人造の山があり、その周りに川が流れているかのようなプールのデザインになっている。なんでも、その山のてっぺんからウォータースライダーで滑り降りることができるらしい。

んもう、早く部屋に行って、着替えて飛び出したいくらいなのに、薔薇さんの手続きは気が遠くなるほど時間がかかっていた。私の突然の参加がトラブルなのかと懸念したけれど、別にそうではないらしい。やっと部屋に到着する。二つの部屋に6人と4人とで別れた。私がステイした大きい方の部屋は2bedroom/2bathで、マスターベッドルームのバスタブの横の扉がスライドしてベッドルームから丸見えになるエロい設定。女子がきゃあきゃあと喜ぶ。キッチンはグラナナイトのカウンタートップで冷蔵庫も大きい普通の家のそれと変わらない。これなら夕食は自炊でよいのではないかと誰かが言い出した。

広いお洒落な部屋というのは、それだけで贅沢な気分になる。ペントハウスの時同様、なるほど気の置けない家族のような友人達と旅行するとこういう楽しみがあるのか。

部屋の素晴らしさに興奮してまもなく、今度は荷物がなかなか届かないことに皆が苛つき始めた。水着が中に入っているからどうしようもない。荷物を一時間以上も待たされて、ベルボーイにほーちゃんがキレていた。日本に住んでいる彼女だけれど、その英語のクレームは見事なものだった。

「僕にキレても何にもならないから、フロントに苦情入れるべきだよ」

そう言われて確かにと気持ちを抑え、ちゃんとチップを渡すことも忘れないスマートな彼女だ。後からやってきた女子二人、『ほーちゃん』と『あられ』はようちゃん同様遠い昔にサンフランシスコに住んでいたことがあるという。なるほど、そういう繋がりなのだな。


水着に着替え、いよいよリゾートで遊ぶことになる。いい大人たちが異常に興奮していた。




入って直ぐ見える敷地

集合!でも薔薇さんは受け付け




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