10/12/2014

恋はハワイの風に乗って 21


「うっひょ〜! まずはスライダーだわよ!」

まだ30そこそこのおげげのぬりこは、グループの中でやりこの子供の次に若い。こういう場所に来て一番にはしゃぎ行動の早い彼を追い掛けて私も続く。浮き輪のボートをわしづかみにして敷地の中心にある人造山の階段を上り、列に続くとそこには二つのスライダーの入り口があった。

浮き輪にはシングルとダブルの二種類があり、スライダーで降りた後はそのまま敷地内を流れる川のようにプールをゆったりと一周出来る。確かにディズニーランドのアトラクションのような楽しさを満喫できるものだ。もう一つは身体ひとつで滑り落ちるスライダー。最後まで真っ暗闇の中を凄い勢いで滑り落ちるそれは、ボブスレーのように身体がチューブの中のカーブで真横まで傾いてしまう勢い。流れる水の量が多いせいか、身体が摩擦で痛いとかそういうものは感じない。その体験は、ディズニーランドのアトラクション『スペースマウンテン』の身体篇という感じだろうか。

私たちが遊び始めたときには、もう夕方だったのでプールから上がれば少し肌寒かった。そんな中、うろうろしていたら温水ジャクジーを発見。そこは大人用と子供用と別れていて、その大人用は海辺を見下ろす滝が付いた二段階のナイスなロケーションだ。

「うわぁあああああ、なんて気持ちがいいのぉう!」

そう、喘ぎながら温水の中で身体を身悶えさせる。すでにもう日が暮れかけていて、遠目にオレンジ色のサンセットが椰子の木のシルエットを浮かび上がらせている。信じられないくらい美しかった。

それをじっと見守りながら、この2週間のオアフ滞在を振り返る。一人で過ごしたワイキキ、チャーとの出逢い、島巡りの冒険、テスと過ごしたカハラハウスの日々、目眩がするようなヒートと午後に吹く貿易風、昔からの仲間と過ごした日々、おかま君の事件やはんこのマリッジブルーと結婚式、とても濃い日々だった。

どんな切ない表情でサンセットに見入っていた私だったのだろう、隣にいたやっさんが「雅ちゃん、何考えてるの?」とちょっと心配したような声色で声をかけてきた。

「ん…いや、とても綺麗だなと思って」

全てがパーフェクトな設定になっている。人々が声高く叫ぶオアフの魅力というのはこれなのだ、と改めて認識した。外の世界の醜さを排除し、ひたすらリゾート地で『非日常』を体験する。それが提供できる自然がそこにある。これこそが『正当派ハワイの楽しみ方』なのだ、と。ハワイのサンセットは相当にロマンチックだ。ハネムーンを盛り上げるには最高のセッティングだし、カップルはこの思い出を永遠に刻み込むのだろう。

ワイキキでは水着を着ていなかったおかま君も、さすがにディズニーではちゃっかり水着を用意して遊んでいた。しかし、薔薇は服を脱ぐこともなくその辺をぶらぶらして写真を撮っているばかりだった。

「薔薇さん、なんでプールに入らないんだろう?」
「ん〜、なんか胸毛があって恥ずかしいんだって」
「は?外国に来て何言ってるの?そんなつまんないこと」
「そうなのよ〜。自意識過剰なのよね。でも、それでも楽しいんだって。みんなが楽しんでいるのを見ているだけで幸せなんだってよ」
「なんか、薔薇さんらしいよねぇ〜」

大手に勤めていて給料もいいし、言葉少ないし相手が楽しければ幸せなんて、それこそ結婚には最高の男なんだろうけれど、それでも嫁に浮気されて離婚したのが2年前。そういえば、やっさんも白人女性と結婚して離婚してるし、やりこもシングルマザー、そして私も離婚の最中。おい、離婚組多いぞ。




ディナーの予約時間から計算して、部屋に戻りシャワーを浴びずに着替えだけしてダイニングに向かうようにと、ほーちゃんからお達しがあり私たちはそれに従った。かわりばんこにシャワーを浴びていたら到底間に合うような時間ではない。

部屋でさっさっと身支度を整えて皆を待っていたら、着替えて現れたほーちゃんをみて、ようちゃんが「何それ!!」と思わず叫んだ。

「え、え、ダメ?これ、ダサイ?ダメ〜? だってぇ、買ってまだ着てなかったし、シーズン終っちゃうし〜。やっぱ、ダメだったかしら〜」

そう、ほーちゃんが身体をくねらせて焦った声を出した。彼女が着ていたのは、袖無しのトップとカプリパンツのアンサンブルだったのだけれど、何故か黄色地に花柄のプリントだったのだ。

「う〜ん、ヨーロッパのお金持ちマダムのバカンススタイルをイメージしたんだよね」
「そう!そうなのよ!!」

そう私がフォローしたら、ほーちゃんが嬉しそうに言い、直ぐに立ち直って先に立って歩き出した。

「私って、ほんとビッチだわ〜。びっくりして『何それ!』とか言っちゃうって酷いと思わない?でもさぁ、あれはないよね。まるでパジャマかと思っちゃった」

そうようちゃんが私と並んで歩きながらくくっと笑いながらまだ一人でウケていた。まぁ、そのくらい言い切れちゃうような仲だと理解するしかない。




一時は自炊するかという案もでたけれど、買い出しの場所を検索してみたら遠くて不便だったので、お一人様45ドルチャージされるバイキングで諦めることにした。ところが、行ってみたら生牡蠣や茹で蟹、お刺身等が食べ放題だし、メニューも充実していたので、結局は沢山食べることができるなら安上がりなのだ、ということで皆満足していた

ウエイターは9人分のチェックを別にしてくれたし、サービスもディズニーらしく満点だ。

「うわぁ、楽しい。やっぱり来るって決心してよかった。ようちゃん、やりこ、私をプッシュしてくれてありがとうね。本当に着てよかったよ」
「そうよ〜、私もおまこが来てくれて嬉しいわ〜。こんなこと滅多にないことだもの」

私はみんなで囲む食事が大好きだ。ベイエリアでは人の家に集まってのポットラックパーティは日常茶飯事だけれど、南国のリゾート地でなんてあり得ない。

「そういえばねぇ、さっきちょっと話した白人のおじさんがいたんだけど、私たちが古い友達10人で来てるって言ったら『君たちはとてもラッキーで幸せ者だね。大人になったらそういうことって本当にむずかしいことなんだよ』って驚かれたわ」

そうようちゃんが続ける。

あのね、『行けない』っていう理由を考えたらいくらでも出て来るの。そう考えて諦めるのは容易いのよ。でも、それでも来たの。そうしようと思えばできることなのよ!

3人の子持ちで、それこそ凄いスケジュールの中で働いているのであろうほーちゃんがそう力説した。彼女は勤める会社全部の支社で一番の売り上げを記録したことのあるセールウーマンだということをようちゃんから聞いている。そのときにすかさずおかま君が「枕営業よ」とフォローしたのには笑ったけれど。

周りの席の人々がいなくなりレストランがクローズされる時間まで私たちは居座っていた。ようちゃんとあられがまだ足りないビールを追加注文して部屋に持ち帰りたがったけれど、ルームサービスがあるかもしれないという希望をもって最終的に重い尻を持ち上げた。部屋でそれが可能だと解った彼女達は心を躍らせ、チップを合わせていくらになるだろうと相談しながらお互いの現金を広げていた。「やだなぁ、私たちドラッグディーラーみたい」とようちゃんが自嘲したのには笑った。




とっとと湯船に浸かっている私に気遣うほーちゃんに「気にしないから入ってきてシンク使っていいよ」と彼女を促す。

「や〜、さすがおまこね。私なんて恥ずかしくて裸見せられない」と褒められてるのか呆れられているのか解らなかったけれど、温泉のある日本人にそう言われる方が逆に不思議な気がした。

みんなが気にしていた私の『駒2』の男は、何度か「仕事が大変」とうだうだしたテキストを送りつけて来て、さくっとミーティングが決まらずにまた流れた。一晩だけしか泊まらないと告げているにもかかわらず、明後日だったら都合が良いとか言ってくるコミュニケーションが取れない男だし、夜遅くになってからやっと会えるようなことを知らせて来たけれど、面倒になったのでやっぱりもうスルーすることにした。

早々に「何時に下のバーで会おう」とか言って姿を現す男だったらよかったのに。そしたら更なる展開があったのかもしれないけれど、3度目の正直で自分とは縁のない男なのだと知らされたようなもの。男はそこから10分の距離に住んでいるというのに、だ。

ホテルのベッドはとても寝心地がよかった。ようちゃん、ほーちゃん、あられはまだまだビールを飲みながらダイニングテーブルで語り合っているようだったけれど。その横で、やっさんとぬりこはリビングに広げたソファベッドで早々に熟睡モードだった。



夜のプール
ジャクジーから見えるビーチのサンセット



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