3/25/2014

日光でデート 2

目指した『カフェレストラン匠』は金谷ホテルに続く坂道の入り口の角にある。駐車スペースはごく3台というところだけれど、幸いにも空いていたのでパーキングを探すこともなかった。階段を上がって入り口に行くと、埃を被ったサンプルケースがあり、古くさい引き戸の前でちょっとびびる私がいた。中に入ると、確かに『昭和レトロ』そのもので、馬鹿にしていた甥も「おぉ」と低く感心した声を漏らしていた。柱の上部にある東照宮で見るようなカラフルな彫り物の飾りが特に印象的で、私たちは眺めのよい窓際の席に案内された。やっといけるトイレにほっとしたけれど、その道のりは結構遠く、途中骨董品が積み重なる場所もありその保存状態はあまり良いとはいえない。辿り着いてみたら女子トイレは蔵を改造したものかと思うような造りだったのでちょっと感動した。でも、中は久々に遭遇する和式トイレだったので、かなり戸惑った。

 

左上から:カフェレストラン匠外観、昭和レトロインテリア、湯葉グラタン、女子トイレ入り口





私は正統派メニューの湯葉グラタン、甥はカツレツをオーダーする。ここで私は改めて甥に自分が実家に帰って来た理由を語った。彼は私の夫に会っているので説明をする必用があった。彼はまっすぐに私のことを見つめて話を聞いていたけれど、他の家族は知っているのかどうかを確認しただけで特に彼自身の意見はなかった。

「知ってる。最初にメールであなたの『かぁ』に相談してて、身体を壊したので早くこっちに来るように言ってもらえたの。こっちに来て翌日にも『ばぁ』にも話したわ」

正直母に話すのは心が痛んだ。しかし、我慢を強いられることもなく説教されることもなく、ただ経済的な心配をちょっとされたくらいで状況を受け入れられたことには本当にほっとさせられた。

食事が済んでからも結構長話を続けていたけれど、店はほぼがら空きだったのでのんびりできた。会計は甥がしてくれた。年下の男がジェントルマンに支払ってくれるというのはやっぱり嬉しい。外にでてクルマを残したまま金谷ホテルをめざして坂道を上る。名前が有名にもかかわらず、その場に足を運ぶのは初めてのこと。格調高い古いホテルでロビーの右側にある客室の建物は見事なもの。『百年カレーパイ』をここで買えるのかどうか入り口で確認してみると、焼き上がると同時に売り切れるのでとりあえず入って左側のギフトショップに行くようにと案内される。この小ささで一個315円という値段にぎょっとしつつ、トレイに7個残っているだけだったので家族と姪夫婦のために全部買い占めてしまうことにした。

トイレを目指して軽く館内を見学し、再び坂道を降りてくると、先ほど食事したレストランの一階が金谷ホテルベーカリーなのに気づいた。多分に『百年カレーパイ』は日光市内のあちこちにあるベーカリーで買えるのではないかとも思う。後ほど家で食べた感想は、確かに百年カレーの味はコクがある味わい深いもので、その辺で食するカレーパンのそれとはまるで違う。

「次はどこに行く?」
「明治の館のチーズケーキでお茶したい」

昭和レトロの次は明治で攻めたい私だった。小さなテーブルも空いていたのに、暖炉の前の4人席の丸テーブルに通された。客は若者が多く、中で一組上品な老夫婦が食事をしているのが目を引いた。店の雰囲気にはやっぱりそんな客が似合っている。

「食事じゃなくてお茶だけでもよろしいのかしら?」
「よろしいんですよ」

甥がそう応えたので笑った。私はオリジナルメニューのニルバーナというチーズケーキと紅茶、甥はスコーンとコーヒーをオーダーする。ウエイトレスは正統派メイドのユニフォーム。ここでは私たちは会話も少なく静かにデザートを頂いた。甥との沈黙はまったくとして気にならない。沈黙を気持ちよく共有出来る相手というのは少ない。夫との沈黙は苦痛この上ないというのに。

 

左上から:明治の館外観、特性チーズケーキ『ニルバーナ』、金谷ホテル客室別館



次はいろは坂を登って中禅寺湖を横目に『湯滝』を目指す。途中甥はクルマを湖のほとりに停めて『中禅寺湖チェック』をした。釣りが解禁になるのが待ち遠しく、そしたら毎週通うのだそう。春はまだ寒いけれど、夏の間に夜中に出て朝焼けの中でする釣りは最高なのだと。甥が桟橋まで出て行って湖をチェックするのを、私は遠くに道路際から眺めた。冷たい空気の中で春の日差しを暖かく感じ、とても静かでこの上ない解放感だ。魚が釣れるかどうかは問題ではなくそこで瞑想をするように時間を費やす事が目的なのだ、と甥は語ったけれど、それが良く理解できるようだった。それを彼に告げると「素敵でしょ」と甥はにっこりと笑った。

前回の冬の帰国時にはやはり彼と一緒に日光に来て滝巡りをした。そのときには『湯滝』の下の展望台に通じる道が雪で閉鎖されていたので、道路際から眺められる上部を吹雪の中でちらりと覗いただけだった。今回は道路の雪はのけられていたけれど、両脇に積もっている雪の量はやはり結構なもの。展望台までの小道も凍っていて、滑るので慎重に歩かなければならなかった。

「日帰り温泉にでも入っていく?」

前回と同様、帰り際に甥が尋ねてくれたけれど今回はパスすることにした。先日近所の温泉に行ったばかりだし、なしにろ化粧水とかの準備もしてこなかったことだし。

ドライブ中に眺める日差しの中にそびえ立つ男体山の姿は雄大で素晴らしかったけれど、地面に雪が積もった枯れ木の禿げ山も面白いアウトラインを描き、まるでイラストのような興味深い風景で心が躍った。遠目に山を見て感動しながら、時折子犬君とでかけたシャスタ山の旅行を思い出していた。やっぱり甥と子犬君はどことなくかぶってしまう。



左から:湯滝、雪が残る山の風景 







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