3/24/2014

日光でデート 1


実家に戻って来てから一週間が経つ頃さすがに退屈さを覚えてきた。家に引きこもったままで、外出したのは近所にある温泉の総合浴場に一度でかけたきり。そんなとき、甥の休みが明日だと聞いた。

「ねぇ、明日の休み、何か用事があるの?」
「別に。クライミングいこうと思ってただけ。どこか行きたい所があるんだったら連れて行ってやるよ」
「やった♪ 別に何処でもいいのよ。あなたとのデートはいつも楽しいから」

私が実家に帰省すれば、甥がデートに連れ出してくれるのはもう恒例の行事になっている。デートといってもドライブなので行く所も那須、日光、益子など近場に限られているけれど、それでも一日を一緒に過ごして個人的な話を打ち明けてもらえるのはとても嬉しい。以前『大食いなでしこ』をYouTubeで視ていた時に『日光グルメシリーズ』をやっていたのを思い出して、再度それを見直してリストアップしてランチデートの目的地を決めることにした。

日光わらびのハンバーグ定食
金谷ホテルの百年カレーパイ
シェ・ホシノのニジマスソテー
かまやカフェデュレバベールの日光丼
カフェレストラン匠の湯葉グラタン
日光くじら食堂のカルボナーラ
華厳の滝のみたらし団子

一回のランチをここから選ぶのはなかなか至難の業だけれど、カフェレストラン匠のレビューが『昭和レトロのインテリア』というのに惹かれてここにすることにした。グラタンというのもここ暫く食べていない。ちなみにニジマスのソテーは「一皿3500円だぜ。俺が釣って来て料理してやるよ」という甥に従って最初から候補から外しておいた。




甥は一年くらい前に、彼女と別れたというメールと共に大きな魚を鱒をつりあげて得意気な写真を送って来たきりで、その後うんともすんとも言って来なかった。私の勘では、きっと別れたと告げておきながらヨリを戻したのでバツが悪くなってメールを送らなくなっていたのかと睨んでいたので、今回のデートは興味深かった。

甥との外出でも念入りに化粧をし、髪を巻き、ドレスを着用してちゃんとしたデートの仕度をする。正直甥にとっては『綺麗な叔母』と思われたい。クルマを出して暫く、私が彼に別れた彼女の話題を切り出すと「クッソめんどくせぇことになってる!」と甥が悲鳴に近い声を上げたので私は大笑いした。さぁ、このデートは楽しくなるぞ~。

話をかいつまんで言えば、別れを切り出したものの彼女がすっぱりと別れさせてくれず『友達としてたまに遊べ』という命令が出たらしい。一日に何度も来るメールのおかげで釣りも安心してできなかったけれど、一応別れたということでしつこいメールはスルーするようになったから、次第にその数も減ったらしい。が、月に1度2度会うのは続いてるとのこと。

「一度すっぱり別れてしまった方が、寂しくなったりして良い所を思い出したりもするし、ヨリを戻す率も高くなるんだけどなぁ?」
「だろう?そう俺も言ったんだよ。でも、別れるのはダメ、の一点張りで、ごねられると俺もうんって言っちゃうからさぁ。2時間くらい会って帰りたいんだけれど、帰るときになるとぐちぐち文句言われて、酷いときには泣きが入るんだな。実は…夕べ遅かったのも、彼女とガストで飯食ってたんだよ」

そこで私の爆笑が入る。甥は情けないような顔で運転を続けた。

「会う毎に嫌いになる。こんな面倒臭いことになるとは想像していなかった」
「そんな相手と会って何話してるの?」
「話してない。彼女が勝手にしゃべってるだけ。で『あなた、私の話聞いてないでしょ?』って言うから『聞いてないよ』って言ってまた怒られて。それで会ってて何が楽しいかと思うんだけれど、それでも諦められることなく会いたい言われるんだな」
「まるで、長年連れ添った夫婦みたいね。まぁ『慣れ』っていうのもあるしね。そのまま押されて結婚するんじゃない?」
「彼女はそれを狙ってると思う。『女なんてみんな付き合えば同じよ』って洗脳されてる。でも俺はそれじゃ嫌なんだよ」

甥はまだ結婚生活に夢を持っている。女は結婚したいから相手を探すけれど、甥の場合は『この女性とずっと一緒に居たいから結婚したい』のだそうだ。でも彼女は今31歳。もうすぐ32歳の誕生日を迎える。甥はまた29歳の男子だから余裕があるのだろう。

「結婚を意識してヤバい頃じゃない?」
「もちろん、もう付き合ってすぐからそれを言われ続けている。押し続けたら彼女もどうにかなるんじゃないかと思ってるんかもしれない。でも、惰性で結婚して愛がなくて、離婚なんてされようならたまったもんじゃないでしょ?」

そんな甥の言葉は私の耳に痛いのだった。

「俺に新しい恋人ができたら彼女もあっさり身を引く感じはするんだけれど、そうじゃないから諦めきれないんだと思う。俺も特にどうしても恋人が欲しいと探してる訳じゃないし」




甥の話を聞いていると去年の『子犬君』との一連の出来事が重なった。男女が新鮮な気持ちで長く付き合うのってどれだけむずかしいことだろう。そして男と女の感じるところ、期待感の違いとか。私はこの元旦の失恋劇のことを甥に報告した。彼は7年前にサンフランシスコに遊びにきたときに、子犬君と会っている。「ずっと付き合っていたの?!」って驚愕されたので、ブレイクがあった過程を説明し、さえなかった子犬君が急にぴかぴかな30歳になったと思っていたら他に二人の女が居た、という事実を伝えた。「あ~、そのぴかぴかはその彼女達のせいだったんだねぇ」と甥があっさりと言ってのけたので、再度大笑いさせられるのだった。

「さすがに25歳と並べられたら私も完全に自信を失って、事実を知ったらもう元に戻せなくなっちゃったのよ」

そういう説明には、同意というまでの言葉は出さずふ~んと言っただけだった。叔母が自分とひとつしか年が違う青年とつきあっているという事実に「俺は何があっても『不倫』は認めないから」と当時言いのけた甥だったけれど、今現在はそのまんまの私を認めてくれている感じがする。彼には何でも話せるし、家ではむっつり不機嫌な彼も私の前では饒舌になる。多分にそのまま気持ちを隠さず打ち明けてくれているに違いないと思う。私と甥の間だけの小さな秘密があるようでちょっとくすぐったい。

サンフランシスコに遊びにきた甥をまるで恋人のように連れ回していたときは、友人に「姐、子犬君と甥っ子君を混同してるでしょう?」と意味深に告げられた。たしかにこのくらいの年の青年とつるむのは楽しい。せめてこうやって相手してもらえるだけでも、大変にありがたいことなのだと思う。

と、そうこうするうちに甥の運転するクルマは日光市内に辿り着いた。



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