3/17/2014

パニックアタック



夢から現実に目覚めるその隙間にそれはやってくる。実家に戻ってからは『幸せの雑音』で現実の変化にすぐ気づくことができるけれど、その瞬間にふと未来の不安に囚われようなら、身体のしびれに襲われる。ここ数日は動悸も起こることはなく、しびれもごく軽いものになった。首の後ろと肩甲骨の間がきゅううっと締め付けられるような感覚がするので、上半身を軽くのけぞらせ左右に身体を揺らして振る。掛け布団をはねのけ両手両足を宙に伸ばし、いわば『ひっくり返ったゴキブリ』のようにぶらぶらゆさぶれば、それはすっと遠のく。時間を確認すれば、朝の7時半。アメリカの生活ではあり得ない起床だけれど、私はそのまま着替えて家族が朝食をとっているダイニングに出て行く。

朝のTV番組を見ながらの朝食、布団の上げ下げ、軽い掃除。それでもまだ8時半を回ったところだ。家族に合わせて生まれる『生活のリズム』というのもよいものだと思う。実家での生活は、毎日多様なアクティビティで忙しくしてきた私にとっては『修行』にも似た感覚がある。ただ家にいて淡々と『田舎の普通の生活』を営む。家族と一緒に食事をし、TVを見ておやつを食べ、母と他愛のない話をし、猫を眺めて和まされる。そして、日一日と着実に健康を回復する自身を実感する。思い切って帰国を決定して正解だった。




去年の5月にそろそろ自然閉経を迎えましょうとファミリードクターに勧められ、ホルモンピルの投与を止めてからさまざまな更年期症状を経験してきた。ホットフラッシュに関節炎、四十肩や座骨神経痛など、以前に苦しめられた疾患が再発。鍼や運動に頼りながら、それらが現れてはいつのまにか治るという過程を通り過ぎてきた。手の指が痛み始めた時にはリウマチを疑ったけれど、検査でそうではないと判明しそれもいつの間にか消えた。

去年の12月中頃には何処と解らぬ鈍い痛みを手首に感じ、その痛みはやがてはっきりとした親指の付け根に定着した。やがて親指をある方向に動かすとスナップする感覚を覚えた。ネットで調べると『ばね指』と言われるものだった。左手なんて使う機会が無かったのに何故?といぶかしんだが、後ほど夜ベッドの中でスマートフォンを親指でスクロールしている自身に気づいた。毎日の習慣がそういうところで障害を生んでいることになかなか気づくことはない。

病院でステロイド系の太い注射を深く手首に刺して治療した。治療後も一週間程は痛みに変りがなかったので、薬が効かなかったのかとがっかりしたものの、それもすっかり治っていると今更のように認識する。

そんな訳だから、何時の日か目覚めのときに不可思議な足のしびれを意識し始めたときも、更年期症状の一種だと思っていた。それはベッドから降りて歩き始めればいつの間にか消える。しかし、毎日のそれは不可解で不快なものであり、その症状が日一日と強くなっていくのは不気味だった。胃痛を覚えた頃には、その早朝のしびれは全身に回っていた。感覚的には皮膚の表面よりもその直ぐ下という感じがした。急性胃炎のフォローアップのときのドクターに相談してみても、解せないと突き放された感じに言われた。

離婚の書類にサインをした後から、その症状が不安を伴った動悸と激しい全身のしびれに変わったところで、やっとそれがAnxiety attack(パニックアタック)なのだと自覚することができた。秋の終わりから止むことなく続いていた激しいストレスが、確実に精神に影響を与えていたのだと思う。そして不眠と絶望の強迫観念。もしあの晩、私が高層ビルにでも住んでいたなら間違いなく窓から飛び降りていただろう。そのくらいその瞬間に迫られているものから逃れたかった。

30代の鬱の頃に身体に合う抗鬱剤をみつけるまで大変なめにあったので、薬に頼らずにいたいとwhole foodsで自然系のサプリを買いあさってみたけれど、とにかく今は夫から離れるべきなのだと言うDや他の友人の助言を聞き入れることにした。もしかしたら飛行機にさえ乗れなくなってしまうくらい酷くなりそうな気がしたので、やむを得ず再度ドクターを訪れた。そういう全身のしびれはパニックアタックのひとつの症状だと、その医師は頷いていた。抗鬱剤、パニックアタックを起こしたときの薬、そしてホルモンピルを処方された。あれほど長く悩まされていた胃痛は、抗鬱剤の投与と共にあっさりと止んだ。一時は胃癌さえ疑ったけれど、やっぱり神経性の胃炎にすぎなかった。

その後一度激しい胸から背中につきぬけるような痛みを覚え、床に崩れ落ちることも経験した。HBOのTVシリーズ『ソプラノ』の主人公が、パニックアタックを起こして崩れ落ちていたシーンを思い出して納得した。





2 件のコメント:

  1. お久しぶりです。体調の方はいかがでしょうか。何も思い出さず、何も考えず過ごすのは、なかなか難しいかと思いますが、どうか日本にいる間は穏やかに日々を楽しんでくださいね。

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    1. kudoちゃん!コメントありがとうございます。おかげでこちらに来てからは症状は治まり快適に過ごしています。家族とも仲良く楽しくやっていますよ♫

      大阪ではお会いできたらいいなと思いますが、元気にやっていらっしゃいますか?

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