4/09/2014

銀座でアルゼンチンタンゴ


週末のダンカンダンスのワークショップ参加の為に上京した。今回は他のワークショップの便利を考えて銀座のホテルにステイした。金曜日に東京入りしたので、その夜にどこかでアルゼンチンタンゴのミロンガをやっているところはないかとネットで調べてみたら、赤坂にあることを知りそこを覗いてみることにした。J-Akasaka3Fにある『PARA DOS』というところ。

見知らぬ所だったらミロンガの前にあるレッスンを取れば、そこで参加者と少し顔見知りになれるものだけれど、もたもたしているうちに時間に間に合わず、やむを得ずレッスンの終わりの頃を見学するだけになった。会場に入ってその狭さに驚き、受け付けにも誰もいなかったので固まってしまった私。とりあえず、レッスンの邪魔にならぬように椅子に落ち着きタンゴシューズに履き替え見学していたけれど、なにやら怖い厳しいイメージと言うか、どこかなげやりな印象をその外国人のインストラクターから感じた。

人数は極めて少なくミロンガが始まっても誰も踊りださず、雰囲気的にフレンドリーという感じでもない。まるぞりの白人がいたので、ひたすら彼のことを見続け、目があったときには「うききっ」っとした笑顔を見せてみたけれど、相手は逆にちょっとひるんだ感じで即好意的な反応を得られた訳でもなかった。

む~ん、やっぱり日本ではうまくいかぬか、と半分諦め気分になり「これは数時間座っているだけで終るかしら」と覚悟を決めた頃、先ほどのまるぞり白人がやって来て隣に座ってくれた。

「俺、今日初めてレッスンとったんだよ。だから踊れないんだ」
「あら、そうなの? 私、ここに初めて来たから誰も知ってる人がいないから、話してくれるだけでも嬉しいのよ」
「いつも何処にいくの?」
「私、東京のミロンガ初めて。ツーリストだから」
「ツーリスト? マジ? ツーリストでいきなりミロンガきちゃうの?」
「そうよ、サンフランシスコから来たの。東京のミロンガ見てみたくて」

結局、彼はインストラクターの知り合いでたまたま彼のレッスンを覗いたらしく、踊れないからということでもう一人の白人男性に私を紹介して一緒に踊るように促してくれた。もう何十年も日本に住んでいる黒髪の紳士はあたりが良く優しかった。多分にラテン系というところか。

外国からくるのはヨーロッパからの人が多く、カリフォルニアから来た人を珍しがって、その男性は踊りながらいろいろ話してくれた。

「君のエンブレイスはとてもいい。胸がついているのでエナジーがとても良く伝わる」
「そうね、私の先生はクロースエンブレイスをかなり強調して教えたのよ。『ひとつになりなさい』が合い言葉だったから」
「そりゃぁいい。世界中の全てのインストラクターがクローズエンブレイスを強制すべきだな」

そう笑う彼と私のダンスの相性は良く踊りやすかったので,それ以降も何度か誘ってもらえて嬉しかった。




最初に座っていた場所に戻ると、隣に座っていた日本人女性が私たちの会話を聞いていたらしく、「サンフランシスコから来たの?」と興味深げに話しかけてくれた。彼女はとてもストレートな物の言い方をする、多分に群れないタイプの人間なのだと思う。日本社会にある独特の馬鹿丁寧な距離感を感じさせないそれは、私にとってはありがたかった。仲良く話しながら、ブエノスアイレスのミロンガにでかけたときのラッキーさを思い出していた。

あまりにも狭いダンスフロアは5組も踊ってしまえばいっぱいいっぱいという感じだけれど、踊っているカップルが皆かなりの上級なのに驚いた。隣の女性が「そうね、ここは上手い人が集まっていると思う」と同意する。

先ほどの黒髪の白人Rに誘われてまたダンスホールで踊ると、今度は彼が私を彼の座っていた席に連れて行ってくれた。そこには日本人女性二人と日本人男性が座っていたボックス席で、みな英語をしゃべる『帰国子女系』だった。それで日本人同士でありながら、私たちは英語を交えながら会話をした。

黒髪の白人が半ば強制的に日本人青年に私と踊るように促し、それで相手をしてもらえたけれど彼はとても上手かった。なんでも世界中いろんな国のミロンガで踊った経験があるらしい。

「あぁ、カリフォルニアの風を感じるなぁ。自由だねぇ」

そう言って笑っていたけれど、要は日本人の型がきまったスキルフルなものに比べて、ちゃらちゃら適当にやってる私のダンスを『遊びが入るのが面白い』と表現してくれたにすぎない。まぁ、『楽しく踊れてなんぼ』だと思っているからあまり気にしない私だけれど。




「明日は銀座の『ORIGIN』に来るといい。そこは、ここよりももう少し広いし、きっと君が気に入る雰囲気だと思うよ」

そうRに言われたし、私もそのつもりだったので、翌日はダンカンダンスの後のワークショップで疲れていたけれど、再度ミロンガに足を運んだ。今度は泊まっているホテルから徒歩で行けたので便利だった。着いてみたら前日に知り合った女性Iさんが一人で座っていたのでほっとした。彼女の隣に落ち着きしばらくダンスフロアを眺めて気づいたけれど、雰囲気は更に気取ってレベルが高いという感じだった。まず、女性の質がいい。皆上手いだけでなく、恐ろしくスタイルがよくセクシーなドレスが似合う背が高い人が多い。

「あぁ、そうね。インストラクターの趣味なのよ」

そう隣の彼女に言われて納得するところがあった。インストラクターは決して全ての人平等に優しいタイプではなく、いわば『生徒を選ぶ』タイプの人かもしれないと思わされる所があった。

昨日最初に話しかけたまるぞりの白人がやってきてぽつねんと一人で座っていたから、彼の隣に滑り込んでいろいろ話をした。そして、昨日のインストラクターの彼は、銀座のカルティエのイベントでショーをやってからこちらに来るのだと教えてくれた。情報では彼が主催する最後のミロンガということになっていたけれど、アルゼンチンに帰国する訳ではなく、別のビジネスに転向するらしい。「あ、burnt outしたのね」と私がへろりと言ったら「その通り」と男も頷いた。

そのインストラクターに限らず、サンフランシスコの数々のインストラクター達にもよく見る現象。情熱を感じて始めたタンゴインストラクターの仕事だけれど、繰り返し繰り返し教えているうちに燃焼しきってしまい、人と接するのさえ疲れてしまう。そうなると、顔見知りの友人とは話しても、あえて新しい人に気を使って話をしたりすることさえ面倒臭そうな態度になる。その彼の印象がまさにそれだった。

フロアで踊る人々たちは、全ての人が恐ろしく上手かった。まるで競技会を見ているような気分にさせられたくらいだから、全く誘われることがなくてもつまらなくなかったけれど、後半黒髪の紳士Rが現れて、結局は彼と踊っただけで終った。日本人の男性からは誘われることはなかった。

そういえば、まるぞりの白人から名前を聞かれて応えた時「日本人なの?!」と驚愕されて、はぁ?っと思ったけれど、日本人でないとしたら何人に見えるのだというのだろう。まぁ『サンフランシスコから来たアジア人』という先入観があったのだろうな。

「君はなかなかナイスに自然にこの場にblend inしてるな」

そう黒髪の紳士Rに言われたときは嬉しかった。こういうところで揉まれていたら、きっと凄く上達するのだろうけれど、何故かしら私はタンゴ熱がそう長持ちしない。結局この冬は一度しか出かけなかったし、どこかに出かけた時にふらりとミロンガにでかけて、ちょっと踊る機会が持てればそれでいいかな、のレベルのままで止まっている。

タンゴインストラクターをリタイアする彼が最後のデモを4曲踊ったけれど、それは素晴らしいショーだった。ミロンガ入場料2500円はアメリカのそれと比べて高いなぁと思わされたけれど、それだけのショーを見せてもらった後は安すぎるくらいと満足できた。

アメリカでもブエノスアイレスでも「日本人のタンゴはとてもレベルが高い」と聞いていたけれど、まさしくそれを実感した東京のミロンガ経験だった。




2 件のコメント:

  1. 銀座のミロンガに行かれたんですね〜♪
    私も銀座のミロンガなら雅さんの雰囲気にも合いそうだし
    「ORIGIN」かな?と思っていました!
    ところで、日本人のタンゴはレベルが高い、と言われているんですか?
    それはちょっと意外!ですが、確かに「ORIGIN」で踊っている人達は
    レベルが高いと思います。でも、日本人の男性が雅さんと踊らなかったのは残念!
    これは私の憶測ですが、皆顔見知りと踊っているのかな?という気がします。
    あと、見慣れない方がひとりで来ていたらミロンガの主催者が声をかけたり
    踊ったりすると思うのですが、それはなかったんですね。
    私も一度だけ、ひとりでそこのミロンガに行きましたが、誰も顔見知りがおらず
    踊らずにデモだけ見て帰って来た事があります。踊るつもりで行きましたが
    行ってみたらレベルの高さに気が引けて・・・かえって踊れなくてホッとした
    覚えがあります。(笑)
    ミロンガも場所によって人も雰囲気も違うし、行ってみないとよくわからない
    ことありますね。


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    1. あ、ORIGINかなと思ってましたか?さすが、ご存知なんですね!
      日本人のタンゴはレベルが高いとどこに行ってもいわれます。ワールドチャンピョンに日本人がなったことが大きな理由だと思いますが、実際SFでも日本人の上手い人が目立つんですよね。

      見慣れない人に優しくしてくれるというのは、今まであまり経験しなかったように思えます。タンゴ社会は人を知っててなんぼ、っていう感じで。だから、つまらない思いをしても何度も足を運んでいて、物好きな声をかけてくれる人と顔見知りになって徐々に顔見知りを増やして行く、みたいな感じでしょうか。地味な努力と忍耐が必用なんだと思います。

      本当、ミロンガって場所によって雰囲気が全く違うから行ってみないと解らないっていうのはそのとおりですね!

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