12/31/2014

年末の恋バナ 2


「それって、遠距離じゃん…」
「やっぱ… そう思う?」

8月にハワイから帰って来た後もチャーとのチャットは続いていた。あのハワイでの毎日のように朝起きたら「おはよう、雅ちゃん!!」昼間に何気ない会話、そして「おやすみ、雅ちゃん!!」と。そして金曜日の朝には「ハッピーフライデー!!!!」ときっちり決まった挨拶が届いていた。サンセットの写真も飽きる程に送られ続けていた。

チャーは相変わらず仕事に復帰できないでいたけれど、生活は普通にできているようだった。チャットはkakao talkを使い、そのスタンプの可愛らしさにお互いが癒されていた。ときには6時間ぶっつづけて会話しあってたこともある。あまり電話で話すことはなかったけれど、たまに話すと声ががらがらに枯れていて凄く暗かったりする。それで、週二回は遠隔レイキを彼に送っていた。始まりと終りにそれを知らせていたので「君がいる人生って、なんてラッキーなんだろう!」ってよく言っていた。

私は今まで男性とチャットをし合うような仲になったことないし、ましてや遠距離もしたことない。お気に入りの相手からテキストが届けばそれなりに返事はする。そして今回それが習慣化し、みっちり毎日「I love you」を言われれば悪い気もしないし、その気になってしまった。チャーは私のことをハワイのデートの時から『ガールフレンド』と呼び、テキストでも『Sweety, Honey, Hon, Love』と呼びかける。まるで離れて暮らしている恋人のような存在になってしまっては、私がこっちのベイエリアでムーブオンできない。一体自分たちの関係は何なのだ?と少々の苛立も生まれ始めて来た。

「めずらしくやけにお気に入りじゃない?」

女友達にチャーのノロケを報告するのに使う言葉は限りなくあった。私は本当に彼のことをとても気に入っていた。ただし、彼の癌の後遺症の為に食事を一緒に楽しめないこと、彼のデカマラで閉じマンが切れマンの私の肉体的苦痛をどう乗り越えられるか?そして、ミリタリーでナースをする彼の移動の件は、将来を考える大きな問題でもあるかのように思えた。

「私たちは『チャット』を楽しんでいるのよ。スタンプも可愛いし、錯覚しているわ。この関係は現実的じゃないと思う」

「I love you!」を連発する彼にそう戒めたこともある。そして正直に「私は自分の気持ちがあなたに対する『愛情』なのか、それともボランティアをするような『慈悲』の気持ちなのかが良く解らないでいる」と告げたときもある。ナースである彼が患者に惚れられた経験があるから、それはちゃんと理解してくれたようだけれど。




今までになく温かい日々が続いたSFベイエリアに冬がなかなか訪れなかったので、ハワイを恋しく思う気持ちもなかった。

「飛行機に乗ればすぐさ。君に会いに旅行できるよう早く身体が回復すればいいな」

そう言った彼だったけれど、お互いに『会う』という行動に出る気配はしばらくなかった。

出会いからみっちり毎日3ヶ月のチャットが続いていたある日、私は彼にこう切り出してみた。

「このままじゃムーブオンできない。オアフは特に好きじゃなかったけれど、あなたとなら住める場所だと思う。私と実際暮らすことにトライしてみたいと思う? 一緒にヘルシーな料理を作って、レイキを受けて。私がヨガのコースを取ったら、家で私の生徒になって健康回復に専念すること、やってみたいと思う?それでうまくやっていけたら、春に私が日本に帰国するときに一緒に旅行するのもいいし」

そうチャーに確認を入れてみたら大乗り気だった。ちょうど良い3ヶ月ヨガティーチャーコースがあったので、全額前払いですぐに席を手に入れ、彼もレジスターできてよかったねと言っていた。




その後暫くして、風邪を引いて寝込んでいたときにチャーの「!!!!」と叫ぶテキストがウザいと感じてしまって、「叫ばないでよ」と告げてしまったことがあった。向こうは「良心でやってるのに」とくるから「良心ですることがいつも適切とは限らないでしょ」というやりとりをした。そのときに「ねぇ、聞きたいことがあるの」と切り出し、「前妻と4年付き合った後結婚し、結婚3ヶ月で離婚されたその理由で思い当たることがあれば教えて欲しい」と尋ねてしまったのだった。以前それについて「まったく解らない」とチャーは言い、何故解らないまま平気で離婚できるのかそれが謎だと私は思っていた。「多分これかな〜、あれかな〜」と何か話してくれれば、パーフェクトな男なんていないので納得出来るものの、今回もチャーは「解らない」の一点張りだった。翌日私は「気分が悪かったからビッチになってたわね、ごめんね」と誤り、それも許されてはいた。仲直りをしてその後三日程は普通にラブリーな会話が続いていた。

「12月の何時頃オアフ入りしようか」と考えていたある日いきなり長いテキストが届き、さんざん私の嫌な点をずらずらと書き綴った挙げ句「君は僕のリタイアメント後の人生の設計図にフィットしない。だから一緒の時間を過ごすのは時間の無駄であり、よって僕は君にここに来て欲しくない。お互いの道を歩くことにしよう」と結論づけて来た。

顎が落ちたわ。

血が引く思いでチャーに電話をしたけれど、取ってもらえなかった。「気持ちは理解するけれど、こんな別れ方は嫌。ちゃんと話そう。電話取って」とお姉さんぽくヴォイスメールを残して再度電話してもやっぱり取ってくれなかった。私もそれなりに言い訳のテキストを送ったけれど、それにも返事がなかったので、仕方がなくホ・オポノポノの言葉を送って終わりにした。kakao talkもチャーとだけの使用だったので直ぐにアプリを削除し、それで密度の濃い遠距離恋愛がぶっつり終った。朝昼晩毎日会話を交わしていたので、暫くはやっぱり寂しかった。

そんな話を友人達に告げながら、どこかほっとしている自分も感じていたのは事実だった。舌癌からのリカバリーで焦っているときに私の存在が癒しになって彼の健康回復が早まるかもと思ったら、私の方から彼に別れを告げることは決してできなかったと思う。でも、食事とセックスに関しては正直モンダイな感じがしてた。それでもめでたくも彼の次の任地に一緒についていく覚悟もしていた。何処の任地希望を提出するかという話も彼としていた。でもリタイアメントで何処に住むかを尋ねられた時には、彼の故郷に住む気はないと洩らしたものの「そんな話、まだ早いよ」ととりあえず成り行きで考えればいいと思っていた。ハワイに居た間の彼はとにかく気に入っていたのだ。ただ、7日間弱の付き合いで何を理解していたのかは疑問だったけれど。




「で、どうすんの?ハワイ?」
「ん、行くよ。ヨガのクラス全額払っちゃったし」
「でも、キャンセルできるんでしょ」
「多分ね。でも、いい。これも運命の導き」
「雅ちゃんらしいわ。笑」

そんな訳で、特に夢のオアフでもなく、ヨガの先生になる目標などなかったのに、ひょんなことからそんな流れになってしまった。SFベイエリアの居心地が良くなって家を出られずにいたので、何か大きなきっかけは必用だった。だから、痛い話だけれどどこか「そうきたか!」という感じもあった。

チャーがえらく『頼りになる男』だったので惚れてしまったのだけれど、そうされて自分の男を見る目を疑い反省した。彼に振られてから、住むとこ探さなあかんと部屋探しに翻弄したのは自立第一歩の良い機会だった。試行錯誤しながらも、運命はラッキーな手応えを感じさせてくれ展開していった。




「サンクスギビング、どうするの?」
「今年はホリデー無視。断捨離でそれどころじゃない」
「シングルが集まる会があるよ。ターキーじゃなくてローストした蟹を一人で丸ごと食べるんだけど」
「行きます」

そんな会話を婆友と交して、家を出ようとしたその時にLineの着信が鳴った。誰だろう?と思ってチェックしたらチャーからだった。

「…」

Lineを知らない男の為にkakao talkを使っていたのに、それを削除したらわざわざLineにアカウント作って追っかけてくるかい?

「Happy Thanksgiving, Miyabi-chan!!!!」

ターキーのスタンプと共に相変わらず叫んでいるチャーだった。まったく学んでいない。その前に言うことあるだろ?おい。

「返事しちゃだめよ」って言われて「しないよ」って応えたけれど、なんかな〜って思う。オアフに住んで、もしかしたらアラモアナあたりでばったり、ってこともあり得るかと思ったけれど、相手に嫌われている訳じゃないんだって解っただけ気が楽になったかな、って気はする。

「ファミリーイベントできっと寂しくなったのね」

婆友は言ったけれど、そうなのかな。

いきなり振られて弁解の余地も与えられないまま3週間が過ぎていた。それからは、うわぁぁああと翻弄していたし、時々はチャーのことも思い出していたけれど、このテキストで彼とヨリを戻そうという気持ちはまるで起こらず、すっかりムーブオンしている自分を発見した。もし、それが振られて一週間後のことだったら解らなかったけれど。




クリスマスの昼間にもチャーはスタンプと共に叫びのテキストを送って来た。今度はエクスクラメーションマークがひとつ増えて5個で叫んでいた。前にスルーされているのに再度やるとはよほど鈍感なのか。それともこれは嫌味でやっているのか。さすがにストーカーっぽく感じられて気持ちが悪くなったので、Lineとテキストメッセージをブロックした。

ばったりアラモアナあたりであったらどうしよう。



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