9/08/2014

恋はハワイの風に乗って 4


心配していた部屋のベッドは寝心地が良かった。カリフォルニアとは3時間の時差で夕べもかなり疲れていた筈なのに、それでもまったくとして眠れていなかった。夜中にパニックアタックを起こしかけていた。それでとうとう薬を飲むことで少しまどろんだという感じだった。私自身、ハワイ移住を決定する機会ということで、自身にかなりのプレッシャーを与えているのを覚える。

「姐さん、意外と不安性ね? バケーションのつもりで楽しんで来たら?」

ゲイのKちゃんがそう言っていたけれど、お通夜の席で、まわりのみんなからハワイ移住に賛成の声が少なかったことへの不安をこぼしていたのだった。




『駒2』の男からテキストが入る。いつ会えるのかと待ちきれない様子だ。ダンスクラスの夜の時間は確実に空けておきたかったので金曜日の夜まで待ってもらうことにした。金曜はヒルトンハワイアンビレッジで花火がある。それを見たいのだと告げたら、それが良く見える場所を予約すると告げて来た。会話はスムースだった。

夕べ『駒1』の男、チャーに若い男と付き合ったことがあると告白したら「やるなぁ」とにんまりされた。

「いるのよ、そういう年上の女性と付き合いたがる若い男の子。彼らは『成熟した女達は自分が何を求めているかはっきりしてるからいい』って」
「たしかに若い娘は『私、どうしたいかわかんな〜い』って言いそうだよね」
「でしょ?」

私ほどの年齢になったら、迷ってるのが可愛いなんて思ってもらえない。完結にさくっと要求を通して、面倒臭くなくしてあげるのが思いやりというものだ。もちろん、相手に『彼女の為に計画する』という任務を与えてあげるのは重要だけれど。でも「なんでもいい」はない。「こういうのが欲しい」というヒントが大切なのだ




早速ビーチに出てみることにする。ランドロードのテスが麻のバッグとビーチタオルを部屋に用意してくれていた。

「まっすぐに歩いて行くとビーチよ。橋を渡って左に歩いて行くとホテルのビーチに行き着くから、そこのチェアーを使うといいわ」
「外部者が使っていいものなの??」
「私はいつもそうしているわ。問題ないわよ」

そう言われたのでそうしてみたけれど、カハラホテルのビーチは人もまばらで特に問題はないようだった。海は遠浅で青く砂浜は白くとても気持ちがよかった。レストランでランチをしたので、それで引け目もなくなった。あのレイに使われる花はプルメリアというのだと、そこのウエイターと話して気づかされた。

昼寝をしようと試みたができず、疲れてはいたけれど、海の美しさに癒された。部屋に戻り、公共のバスに乗ることを決心。思いつくことあり、チャーにテキストしたら直ぐに返事がきた。

「私のレイキ受けてみたいと思わない?」
「それは素敵だ。何処で?」
「あなたのお家で」
「でも、今日MINIをサービスに出していて迎えにいけないんだよ」
「今日は公共バスに乗るチャレンジなの。アラモアナまで迎えにこられる?」
「いいよ。じゃぁ、着いたら連絡し合おう」

チャーの良い所は、とにかく連絡が的確で迷わないし行動が敏速だ。私は準備をしながらテキスト会話を交して、どんどん思ったことに向かって行動ができる。

アラモアナでバスを降りて目についた所を告げたら、チャーは直ぐに姿を現した。昨日と同じような格好に見えたが、違う柄のアロハシャツを着ていた。ひょろりとした姿にサングラスの彼は、やっぱりどことなく3枚目のような感じがする。何故と言われても上手く言えないのだけれど。直ぐにバスに乗って彼の住むコンドに向かった。彼にとっても初めて乗る公共バスだったようだ。




男の一人暮らしの部屋は大変に興味深い。入ってすぐにオールドファッションのカーペットがイケてないと思ったし殺風景なイメージがあったが、家具のひとつひとつを観察してみるとまるで私の家の趣味に近かった。手作り風の渋い色使いのカントリー風の家具、上質なレザーのソファ、マスターベッドルームのベッドヘッドには、エスニック風の動物の木彫りのついたてを置いていた。そして、ベッドカバー、クッションの柄と色使いを見てプシュっとくるものがあった。彼の趣味は私のそれそのものだった。

ゲストルームは彼のオフィスになっていて、ドイツ製のオフィスチェアに目がいった。アーロンかなと思ったけれど、彼は特にブランドに気にしていないようだった。ダイニングテーブルにはマックエアがあって、私同様のアップルユーザーだ。殺風景に感じたのは、壁ががらんと空いていたせいだと気づいた。

「絵を飾ってないのね」
「レントだからね。壁に穴をあけられないんだ。カーペットもそう。凄く古いんだよ。このダイニングテーブルは俺のじゃないんだ。部屋に付いて来た。処分する事もできやしない」

バスルームやキッチンの水回りも恐ろしく綺麗で、キャビネットや冷蔵庫の中も整頓されて清潔なのは、彼のクルマ同様だった。別にメイドサービスを入れている訳でもない。自分で掃除するのだそうだ。

15階のその部屋のどこからでも180度の海を見下ろす視界があった。

「あと5年でリタイアメントだ。ハワイに住めたらいいなと思う。今、プロパティを買おうといろいろ調べているんだ」

彼は自分の生まれ故郷に既に家を購入済みで人に貸している。それでも、オアフに住んで2年、この土地が気に入ったと言う。彼はしばらくつまらない投資の話をしていたが、私の顔色に気づいて直ぐに話を打ち切った。鈍感な男ではないらしい。




ホスピスでレイキサービスをするように、ゲストルームのベッドを使い彼にレイキを施した。眼鏡を取り、目を瞑った彼の顔はえらく美しかった。これは子犬君にも同様に感じることだった。お互い地味顔の金髪ボーイなのだけれど、目を瞑った顔を頭方向から眺めるとき、その美しさに感動する。

私のレイキは彼に入らなかった。彼がそれを信じていないのか無意識にブロックしているのかは解らないけれど、手応えはまったく感じなかった。自分のエゴで彼にそれをしたのもあるとは思う。彼の身体に手を置きながら、彼の足の肌がとても綺麗だったのに気づいた。昨日、裸足で運転する彼の足に好感を持ったのは、すね毛が生えていないクリーンさだったのだ。

「とてもリラックスした」

そうチャーは言ったけれど、実際のところは良く解らない。

そんなところでMINIディーラーから連絡があり、彼はクルマを取りにいくことになり私もそれに同行した。今のMINIは2台目なのだけれど、2年で11回も修理に出すなんて欠陥車だと目を回し、クルマを買い替えるのだと気にしているBMWを一緒に見に行った。そんなショッピングは楽しかった。彼がセールスマンに「僕のガールフレンドが」と私を呼んだ時、心のベルが高鳴った。そのときにかなりの幸福感を得た。

昨日からずっと、彼が私以外の人々に接するときの会話を観察している。彼は奢らない。とても柔らかくて丁寧な会話を誰とでもする。それは電話の会話でも同様だった。

「さぁ、クルマも手に入った。これからどうしたい?」

そう尋ねられてアラモアナショッピングセンターに戻りたいと告げた。せっかくだからどんなところだか確認しておきたい。

モール全体を流しながら彼と手を繋いで歩いた。夕べも気づいたけれど、ごつごつとしていないすらりと長い指とその手の平は恐ろしくスムースで気持ちがよかった。ブランド品のショップに入ったとき、決してそれを強く賞賛したり逆にけなしたりもしない。それなりに好奇心を持って眺めていた。それから彼は日本食がある階に連れて行ってくれた。ありとあらゆる懐かしの味が手に入るそのフードコートは私を興奮させた。

「Sticky Rice、俺好きだよ」

そう彼が何気に呟いたので、三食おこわを買ってもらった。それを一口ずつ彼が試食した。どこまで味が解るのか確認させると、まったく味覚がない訳ではないことも解った。それでも一口ずつしか食べられない。残りは私が全部平らげた。

「辛抱強く俺に付き合ってくれてありがとう。いつかこれが治ると信じてるんだ」

私を部屋まで送り届けながら、家の場所を的確に探し出した。勘も良い男だと思った。私は彼といるとすっかり安心していられる。二日目のデートは既に慣れた居心地の良い間柄になったようだった。


プルメリアの花


カハラホテルのビーチ
プルメリアビーチハウスでランチ




0 件のコメント:

コメントを投稿