9/07/2014

恋はハワイの風に乗って 3


オンラインデートサイトと聞くと、途端に違和感を露わにする人が少なくない。まったくとしてどうしていいか解らない、と言う。オンラインの向こう側にいるのは、実生活で相手を見つけられないルーザーや変態しかいないと決めつけている人もいる。そういう人は自分が思っている相手を引き寄せる。極めて『普通』な私がいるのだから、向こうにも極めて普通な人がいると信じている私だから、そういう人とちゃんと繋がることになっている。気分が悪い経験をしたことはそうないし、そのときの自分の立場に必用な的確な相手を欲しいままにゲットできてきたその功績で、おかま君を中心とするゲテモノ系の仲間から「おまこは凄いわ!」と揺るぎのない賞賛を得てきていた。

その昔流行った『ルールズ オンラインデート篇』を読んで実践してみたくなった衝動で、8年前に22歳年下の子犬君を拾った。私は45歳の女の一番の熟れ盛りでモテ期を生まれて初めて経験していた。子犬君と付き合ったり別れたりを繰り返しながら、オンラインデートをゲームのように実践していた。『拒否された感』がつきもののこれは一人でやっているとストレスが溜まるかもしれないけれど、同様にトライしている女友達と男を観察しながら逐一報告しあうのは面白かったし励みにもなる。我々は、連絡を取り始めた時点で男を『駒』と読んだ。ゲーム板の上で何処まで進められるかの駒である。相手から初めての連絡が来て、それを実際のデートにまで進ませるのには結構な神経と労力がいる。私たちが思うよりも、男性達は意気地なしで恐がりで、女達は贅沢で簡単に気がそがれるし気が短い




ハワイで落ち合うところまで引っ張った『駒』は二人確保しておいた。その『駒1』との会話はさくさくとスムーズに進み、さっくりと電話番号を教えてくれた彼とテキストで繋がった。

はんことの夕食がなくなったと解った瞬間に駒1に連絡を取ったら、彼の出動がさくっと決まり、私の部屋まで予定どおりの時間に真っ赤なコンバーチブルのMINIで現れたのにはプシュッと潮吹くくらい興奮した。私自身がシャンパンゴールドの自分でデザインしたMINIを運転するので、この彼はそれだけでいきなりかなりの点数を獲得したのだ。車内に乗り込めば、どこもかしこもぴかぴかだったので更に心のベルが高鳴った。

写真で見る限りはちょっとオタクっぽい感じで英語で表現すること『ギークっぽい』彼だったが、それでもやりとりに日本語の挨拶を交える彼の得点は高かった。そういう男を選ぶことで、自分は面食いではないのだということを今更ながらに自覚する

彼の英語には聞き慣れないアクセントがあったが、それに好感を得た。サンダルを脱ぎ、裸足で運転をする彼を観察する。短パンにアロハシャツというその出で立ちは、ハワイらしいカジュアルさだけれど、その渋い柄とカーキの短パンの選択に良い趣味を感じさせられた。髪はクルーカットで、私が子犬君に求めたその短さだった。全体的にとにかく清潔感が漂っていて好感度大だった。チャットのやりとりの中で、もうすぐバッテリーが切れそうと警告を発したら、私がクルマに乗り込むなり自身のiPhodを外して私のiPhone 4Gを差し込んでチャージしてくれた。そのiPhodはカバーがオレンジ色の革製だったので、そのセンスに更に心の鈴が鳴った。




以前の男達とのデートと同様、知らない男のクルマに乗り込んでも快活な会話が滑り出す私だ。駒1の男からは既に居心地の良い親近感が得られた。彼とのデートはワイキキの夜のビーチの散歩だった。

ビーチに辿り着き「ここからは裸足になるのよね」と、赤い皮のサンダルを手に持ち、つま先が砂に埋まる感触を楽しんだ。夜の生暖かい風が吹くビーチで海岸に沿ってのイルミネーションを辿りながら、男がホテルの名前を説明する。そんなことに特に興味もないので適当に返事をしていた。自分のノリが悪いのを自覚して、最近の友人を亡くした不幸をさらりと説明したら、彼が自分が死に近い環境にいるのでよく理解できると同情してくれた。そして小さな堤防のようなところを歩いていた時、そんな話の流れから彼がふいに5週間前に舌癌の治療を終了したばかりなのだということを打ち明けた。しかし、ホスピスボランティアをし続けている私にとっては、ただ慣れていることなので「Oh, My!」と小さく呟いた瞬間に彼を深く抱きしめていた。それは私にとっては自然で日常のことだった。

「え〜、なに嬉しい。もっとして」

そう照れ隠しに言った男は「じゃぁ腕を組んでいい?」と素直に私に訪ね、それで私たちは恋人のように腕組みをしたり、手を繋ぎながら通路に溜まった水の中をじゃぶじゃぶ歩いたりと、なかなか良いデートの流れになった。

どこで何を食べようかと吟味しながら、夜のワイキキの中心を彷徨った。お祭りのような人混みで、ラスベガスのそれを彷彿させた。何件かの日本食関係の店を当たったが、待ち時間が長かった。そんな中を適当に流しながら、最終的には焼き肉屋に落ち着いた。

その店の前のベンチで待ち時間を過ごすまでにも、私たちはデートサイトの経験や自身の離婚劇の一部を軽く打ち明け合う。男の話ではあまり女運がいいとは思えなかった。彼は何故4年も付き合った相手に結婚後3ヶ月で別れを切りだされたのか理由は解らない、と口をへの字にして言った。私はそれに対して、何故それを解明しないままでいられるのだろうと思ったくらいだった。

充分に歩いたしお腹も減っていたから、テーブルに通されたときには思わず満面の笑みを浮かべた私だった。

「あぁ、やっと笑ってくれたね。その方がいい」
「私、そんなに笑ってなかった?」
「すごく悲しい表情をしていて、どうしようかと思ってた」

初対面の人にそういう印象を与えてしまうなんてダメだなぁ私、とは思いつつ、飾らない自分がいることにも気づかされた。何のしがらみもない私個人の出逢いなので、自然体でいるには違いがないのだけれど。

食事をオーダーしてから、彼がろくに食事が出来ない身であることが判明した。喉を切り舌の根本の一部と甲状腺を摘出した手術の後に、放射線治療を受けたらしい。その後遺症で味覚と唾液の分泌を失ったのだそうだ。彼は形だけの、鳥がついばむような食事をした。15キロ以上痩せたとのことで、写真からの印象とかけ離れていたのはそのせいだった。

私自身がとても気にする歯並びだってすきっ歯で、はっきり言ってハンサムとは言い難いのに何故か好感を得ていた。プロファイルを見たときから不思議にそれを感じ取っていた。




2 件のコメント:

  1. 『オンラインデート』と聞くと
    スタイリッシュな感じがします〜

    残念ながら
    日本では『出会い系サイト』として
    ひとくくりにされ
    怪しさ満載です(笑)

    雅さんと駒1さんの関係は爽やかな感じがします〜
    全くもって羨ましい…( º﹃º` )

    あのルールズに
    オンラインデート編があったとは!

    私が読んだのは
    『The Rules of LIFE』です(*^^*)

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    1. 私、確かルールズを3冊くらい持っていた筈なんですが、家にありません。きっと誰かに貸したまま忘れてるんだろうなぁ。

      『The Rules of LIFE』って読んでないかも?

      確か、結婚してからのルールズもあった筈です。

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