9/18/2014

更年期の性『枯れ』の実体


あれは確か10年近く前のことかもしれない。彼女は駐在員の嫁で、私より多分5歳以上は上だったと思う。当時私はばりばりのアート系だったし、その彼女とは『世界が違う人』であり「多分サンフランシスコだからこうやって知り合ったけれど、日本にいたら絶対にかかわり合いはなかったと思う」と冗談でもそう彼女は私に言ってのけたくらいだった。

「真剣に相談したいことがあるの。雅ちゃんくらいしか話せる相手がいない」

そう、その彼女が個人的に連絡を取ってきたときには何事かと思ったけれど、それはどうやら性的な相談のようだった。

彼女と旦那さんはセックスレスで、子供のために一緒に生活はしているけれど、大きなお屋敷で寝室も別にしている生活が長く続いていた。駐在員の嫁という立場でもあり離婚も現実的ではないにもかかわらず「そのうち離婚する」が彼女の口癖になっていた。ところが、ひょんなことからかなり年下の恋人ができ、じっくりと関係を温めたうえでいざ性交渉に臨んだ時に、彼女の膣が閉じていてまったくとしてそれが成りたたなかったというのだ。

「閉じてしまう訳はないでしょう?」
「本当に閉じてしまったの。長いこと使わなかったらそういうことになるのよ。びっくりして医者にもいったのよ」
「で?」
「医者は問題はない、って言っただけだったの」
「じゃ、問題じゃいんじゃない?」
「でも、本当に閉じているのよ!」

そう、彼女は言い張った。それで、その彼との関係を保つ為にも彼女が膣を広げる必用があり、ディルドーを買いたいのでそれに付き合って欲しいとのことだった。

サンフランシスコは本当にリベラルな街で、「まるでスマホのショールームですか?」というくらいのクリーンで明るいイメージのアダルトグッズショップが街のあちこちに点在している。『Good Vibration』というそこへ行ってみれば、店員は本当にごく普通のフレンドリーな人たちで、なんとなく居心地悪そうに入った客に優しく声をかけるし、レズビアンやヘテロのカップルが普通に楽しそうにディルドーを手にとって遊んでいたりする。そういうのを目にしていると、照れたり恥ずかしがったりしている方が不自然な感じがしてくる。

おかま君と遊んでいるときにそこを通りかかって、ふと店内を流したりしたことがあったので、彼女をそこに連れて行った。そして、時間をかけて彼女が吟味したのは、まるで指の細さくらいのペンシル珍子のディルドーと潤滑剤だった。そんな細いものが存在することに驚いた私だったけれど、彼女は袋に入れられたそれを実に愛しく胸に抱き「ありがとう、雅ちゃん。私、頑張るわ」と呟いたのだった。




そんな出来事もすっかり忘れていた去年の夏、私自身がそれを経験するとは思ってもいなかった。

子犬君が夏の間友人の農場でバイトをすると遠距離になったとき、多分それは一月半ほどごぶさたしていたと思う。ハルビンの温泉地で久々に落ち合い、懐かしい彼の身体を抱いた時に、それはかなり痛みを伴った辛いものになっていた。

子犬君と別れていた3年間に、たまにそんな機会に恵まれたときは『めりめり』という感じで押し開かれたときに痛みは伴っても、ゆっくりと時間をかければそれなりに楽になってその場を楽しむことはできた。しかし、その時のそれはまったく違った痛みだった。

とにかく入らない。さほど大きなそれを持っている訳でもない彼が「うわっ、きっつ!!」と驚いたくらいだった。

痛みを耐えていればそのうち楽になるものだと思っていた私は、とりあえず我慢し彼を受け入れたけれど、後ほどトイレに行った時に出血していることに気づいた。そして、その後の性交は苦痛を伴うものでしかなく、彼の為に我慢はしたけれど楽しいものではなかったので、子犬君も言葉にはださずしてもどこか白けた感じがあったのは事実だった。

その半年程前に私は閉経していた。その夏、ホットフラッシュが頻繁に起こり始めていたし、体調はかなり不安定で不快感も続いていた。

ドクターを訪れ、それを相談したときに勧められたのが『Replens』だった。処方箋はいらない。Amazonで購入することができる。レビューを読んでみると、問題解決になったと声を上げる人も多い反面、使用中に外に流れ出す、コテージチーズのようなおりものが気持ち悪い等の声がある。3日に一度チューブのクリームを付属しているアプリケーターで挿入する。

確かに時間が経つとクリームが流れ出して来て下着が汚れるので、私はタンポンを併用している。そして、レビューで読んだ『コテージチーズのようなもの』にも遭遇することになった。

ある日何気に、自身の膣の中を洗浄したいとの気持ちがあったので、風呂に湯をはって湯船に横になり膣口を広げて湯を中にいれ「ふんっ」とそれを放出してみた。膣の中のおりものが出て来て湯船の中に白い『コテージチーズのようなもの』がゆらゆらと漂い、それがゆっくりと開いた時にある種の驚愕を得た。それはまるで卵の殻についている薄い膜のようなものだったのだ。

それでこのクリームの効用が、膣内の壁の皮膚の『ピーリング』を行なっているのだということに気づいた次第だった。




女性の膣は更年期や出産、または抗癌剤の使用などでホルモンバランスを失い細胞の自然な潤いを失う。多分にそれは、新しいホースは柔軟性があるけれど、庭に放置して古くなったホースは乾燥して固くなり、無理な力を与えると亀裂を伴うのと同様なもの。肉だって、ジューシーな生肉は弾力性があるけれど、焼いた肉の表面は固く表面はひび割れるくらいでもその中はまだ赤く柔らかい。

この場合、いくら市販の潤滑剤を使用したとしても表面の滑りが良いだけであって、膣そのものの弾力性が良くなっている訳ではないから、痛さには変りがない。それを男性側は理解していない。

私たちは目に見える手のひらや脚、顔の乾燥には敏感だけれど、膣の中の壁の細胞がどのような状態になっているかなどと気にしたりしない。「私、枯れてるわ〜」とジョークで笑っていたりするけれど、その『枯れ』が一体どのようなものかなどと、想像もしないで言っている。

そのクリームを一本を使用してまもなく、子犬君との次なる機会を持った時、最初は怖かったけれど確かにその効果があることを自覚した。

元旦に別れて、この6月にシャスタ旅行で再度機会を持った時、事前から準備してこのクリームを使用していた。自身の潤いが悪いのは気持ちがもう離れているせいだと思ったけれど、膣そのものはまだ受け入れられる状態でいたようだった。そしてこの旅行の後、多分にもう二度と子犬君に戻ることはないだろうという思いと共に、これで本当に枯れて行くであろう自身の身体を覚悟した。私たちはもう人生を一緒に楽しめる同じステージに立っていない。『サプリ恋愛』の限界を受け入れつつ、どこか気が楽になっている自身にも気づいていた




長年結婚している夫婦は、たとえロマンチックな関係はなくなっても、習慣として性交を持ち続けている人も少なくない。しかし、妻が閉経を迎え細胞に潤いがなくなり、膣の伸縮も悪く以前のような快感が得られなくとも、それが夫には解らない。自分のものを挿入するために潤滑剤を使い、それが滑らかになれば全てが解決すると思っている。そして『入れられれば』それが快感に繋がると思い込んでいる。

レイキプラクティショナーで一番仲良くしていた60代男性Gは、私のオープンさを気に入って特に可愛がってくれた。レイキをする相手には本当に思いやりがあり、温かく包んでくれるその居心地の良さが素敵だったけれど、彼の私生活はそれとはまるで正反対のようだった。女房はレイキを理解しないし、彼の相手をするのを嫌がった。多分にそれでも夫婦は時々やっていたし、それは前戯もない性急なものだったのかもしれない。

「性交渉はある。でも、もうロマンチックさはない。女房は俺の相手をするのをいつも嫌がる。離婚したいけど金がかかるし、人生間違ったところに閉じ込められたような気分だ」

そうこぼしていた彼だったけれど、私がこの春2ヶ月日本に帰国しているうちに、どこかに姿を消した。噂では家を出たらしいということだった。

「ガールフレンドでも出来て、その人のところにでも転がり込んだのかしら」

時々彼のことを思い出してそう推測したりする。とても健康的な60代で魅力的な部分もあったから、若い彼女ができたとしても不思議ではない。

60代の男女の性。その個人の生活の裏にはいろいろと語られない問題がある。




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